武器
登場人物紹介
平次…主人公。現在研修中。
奈月…平次の研修に付き添い中。
「とまあ、こんな感じで今回の研修は終わりにしようと思うんだけど、最後に君が関わることの多いであろうメンバーを紹介しておくよ。ちょっとこの教室はボロボロになっちゃったから、部屋を移ろうか」
そう言うと黒は、教室を出て行った。改めて見てみると、教室はあちこち壁がひび割れが走っていたり机が吹き飛んでいたりと、ひどい有様だった。もっとも、あれだけ暴れれば当然といえば当然だろう。
僕と月も黒に続いて教室を出た。
ガランとした廊下は、相変わらず人影がなかった。
「一つ上の階だよー」
カツンカツンと音を立てながら、僕たちは黒について階段を昇った。
「あ、そうそう。へーじ君の武器はハンマーって事でいいのかな?」
「え?」
「さっき破壊号と闘った時にハンマー使ってたじゃない。これから正式に配属されるにあたって武器が支給されるんだけど、ハンマーでいいのかなって」
「む……すみません、少し考えさせてもらえないです?」
「それは構わないけど、今日中に決めちゃってね。なるべく早く支給しないと、活動に支障ををきたすかもしれないから」
「わかりました」
わかりました、とは言ったものの…今日中ということは、それほど時間はないだろう。
さっきは何となく近くにあったというだけで手に取ってしまったけど、正直ハンマーは嫌だ。
"なぁ月。月はどう思う?"
僕はパートナーに意見を求めた。
"む、武器の事か。うーん、平ちゃんは何か使ったことあるのか?剣とか槍とか"
"いや、ないけど…"
格闘技の類は全くやったことがなかった。
体育の柔道を含めるのは、おこがましいというものだろう。
"だったら、私もハンマーでいいと思うぞ。一から剣術を習うよりは、イカスモノの力を用いてハンマーで叩き潰す方が手っ取り早いような気がするけど"
「むむ…」
だけどなぁ…。どうせなら剣とか刀とか使ってみたい。深い理由なんてない。かっこいいからだ。
妖刀、魔剣、聖剣…。世に広まっているそれらの扱いに比べ、ハンマーはなんというか、地味である。
それにあの場には、男心をくすぐる武器がいくつもあった。
なのにあえてハンマーを選択するというのは…。
「ドワーフじゃないんだから…」
僕がボソリと呟いた言葉を、耳ざとく月が拾った。
"平ちゃん、言いたいことは何となくわかるが、ドワーフさんを馬鹿にするのはよくないぞ。彼らがいなかったらトンネルが繋がらなかったり強い武器が手に入らなかったりするんだからな"
月が、思った以上に強くドワーフを擁護したので、僕は少したじろいでしまった。
"い、いや、別に馬鹿になんてしてないよ"
"なにか。ドワーフは斧かハンマーでも持って鉱石でも掘ってろと言うわけか"
"確かにそういうイメージはあるけど…しかしそもそも、それはどこから来たイメージなんだろうな。映画とかゲームとかなんだろうけどさ"
"まあ、そうだろうな。最近はそのイメージを払拭しようと頑張っている動きも見られるみたいだけど、大きく覆すまでは至っていないやね"
僕の持っているのはいかにもステレオタイプなイメージらしい。しかし、月が言うには、今は様々なタイプのドワーフがいるというのだ。
"ふぅん…まぁいいや、もう少し考えてみるよ"
この部屋だよーと黒が手招きしているので、僕はひとまず月との会話を打ち切った。




