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イカシコロス  作者: 小雨
第一章 逸脱した彼の話
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鑢子博士の暴走

登場人物紹介

平次…主人公。現在実技研修中。

奈月…平次の研修に付き添い中。

鑢子(やすりこ)博士…技術部に所属している自称正義の科学者。

破壊号試作型…鑢子博士の生み出した戦闘兵器。鎧武者のような外観をしている。

僕が手にとった武器は、いかにも無骨さがにじみ出ている巨大な鋼色をしたハンマーだった。叩きつける面は、片側は平たく、片側は鋭利な突起状になっている。

単に手近にあったから選択しただけであり、特に深い考えがあったわけではない。しかし鎧相手に斬撃は通りにくいだろうし、単純に打撃で破壊するのは理にかなっているような気がした。

とにかくやってみるしかない。僕は先ほど拳に力を移動させた要領でハンマーを包み込むようにすると、接近してくる破壊号の横っ面目掛けて大きく振り回した。

鈍い音とともに、今度は確かな手応えを感じる事ができた。

破壊号はもの凄い勢いで壁まで吹き飛んでいった。

「ああっ、破壊号!」

鑢子博士が悲鳴に近い声を上げながら、破壊号に駆け寄る。

僕は荒い息を吐きながらその光景を見ていた。

「や、やったか…」

"平ちゃん、そのセリフはあまり良くない。そういうセリフを吐いたときは、大抵やってないぞ"

果たして、月の言うとおりだった。ゆらりと鑢子博士が立ち上がる。

「やってくれたな、貴様…」

見ると、破壊号の首から上は完全に吹き飛んでしまっていた。

頭部を失っても尚自立する不気味な鎧武者の姿に、僕は少し寒気を感じた。

「はーいはい、研修ここまで!勝利条件達成!へーじ君お疲れ様、正直ここまで善戦するとは思わなかっ」

「黒、黙ってろ。まだ戦いは終わっていない。破壊号、虐殺モードへ移行!」

「き、聞き間違いかな?今虐殺とかなんとか…」

"博士は虐殺モードと言った"

淡い期待を抱いたが、どうやら月の耳にも聞こえたらしい。

ブシュウウと、破壊号から赤い煙が吹き出す。ロボット故か殺気こそ感じなかったが、僕の本能が告げる危険信号はその吹き出した煙のように真っ赤っかだった。

「は、博士ちょっと興奮しちゃったのかな…へーじ君、せめて死なないでね…」

黒が目に見えて冷や汗をかいていた。

「正直ここまで追い詰められるとは思わなかったぞ。だがこれで終わりだ。破壊号が貴様の幕を引く!」

博士は本気だった。本気で悪役になりきっているのか、それとも単に頭に血が上っているのか。………来るっ!


「博士、ダメですよ!」

突然、声が響いた。

鑢子博士は一瞬驚いたように体を震わせた。

僕はこの声に聞き覚えがあった。先ほど食堂で話をしたばかりの。

「やりすぎです博士。落ち着いてください」

研修室のドアを開けて、静さんが入ってきた。

「し、静…戻っていたのか…。だって破壊号が…ひどいんだよ、あの新人…」

鑢子博士は目に見えて狼狽えていた。

「だってじゃありません。今回の目的は彼の研修です。殺してしまってどうするんですか?」

静さんは、静かに鑢子博士を問い詰めていた。

「だ、だって…だって…」

「だって?」

「………………………………ごめんなさい」

鑢子博士が消え入りそうな声で謝罪の言葉を口にしたのは、それから間もなくのことだった。

「静、戻っていたのかい!」

黒が口を挟んだ。事態が沈静化したと見たのかもしれない。

「えぇ、戻りました。成果物については諜報部に提出していますので、後ほど確認をお願いします」

「うん、わかったよー。今回も無事任務完了してよかったよかっただよ。ねぇ、博士」

「あ、あぁ…」

「そういえば博士の支給してくれた新しい武器、使い勝手よかったですよ」

「ほ、本当か!」

静さんの言に、さっきまで沈んでいた鑢子博士の顔に、一瞬で笑顔が咲いた。

「えぇ。使用感については研修室でフィードバックします」

「うん、行こう!」

そう言うと鑢子博士は破壊号を回収し、静さんと一緒に研修室を出て行った。

部屋を出るとき、静さんが僕に小さく笑いかけたような気がしたのはきっと気のせいではないだろう。暴走する鑢子博士から助けてくれたのだ。

「いやーあぶなかったねへーじ君。まぁ君なら大丈夫だと私は信じていたよー」

白々しい事を平気で言う黒だった。せめて死なないでねとか言ってたくせに。

ともあれ、一応実技研修は終わったらしい。

「ところで、鑢子博士は静さんと随分仲がいいんですね」

「あれ、静ともう会ったの?これは紹介する手間が省けたかな。うん、そうだね。静は諜報部のエースでね、任務に使用するなんやかんやを開発しているのが鑢子博士なんだよ」

なんやかんやってなんだよと思ったが、聞かないでおくことにした。きっとそのうち、嫌でも知ってしまうのだろうから。

「ひとまず休憩に入るけど、何か質問あるかな?」

あぁ、そうだ。

「質問いいですか?」

「うん、なに?」

「鑢子博士って、何歳です?」

謎だった。小柄だが、言動は妙に大人びていた。かと思えば、静さんに対する態度はまるで小さい子供のようだった。

「はっはっは。だめだよへーじ君、女性の歳を詮索したりしたら。でもとりあえずヒントだけ…あの場にいた中で、一番年上なのは、鑢子博士だよ」

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