破壊号試作型
登場人物紹介
平次…主人公。現在実技研修中。
奈月…平次の研修に付き添い中。
鑢子博士…技術部に所属している自称正義の科学者。
破壊号試作型…鑢子博士の生み出した戦闘兵器。鎧武者のような外観をしている。
"平ちゃん生きてるな!すぐに送る!"
月の声が脳内に響くと同時に、何かが体の中に入ってくるのを感じた。それはすぐに僕の血潮と混ざりあい、体中を巡っているようだった。
"前、前!"
爆炎を切り裂くようにして、目の前に赤い塊が現れた。…早い!
「う、うわっ!」
僕は驚いて、反射的に後ろに飛んだ。
「えっ」
自分でした行為にも関わらず間の抜けた声を思わず出してしまったのは、想定していたよりもの凄い距離を、想定していたよりもの凄い速さで僕が移動したからだ。
僕はそのまま、壁に激突してしまった。
「いって…」
反射的とはいえ、それほど早く動こうとはしていなかったはずだ。これが強化された力なのか。
"平ちゃん、来てるぞ!"
ハッとして前を向く。再び鎧武者が迫ってきていた。
その外見から遅い動きからの強烈な一撃を想像していたのだが、とんだ検討違いだった。相手は人間ではないのだ。相手の動きを勝手に想定すると痛い目をみてしまうだろう。
逃げてばかりいても仕方がない。色々と試してみるしかない。これは研修なのだから。
僕は覚悟を決めて前を向いた。破壊号は僕に向かって一直線に接近してくる。僕は月からもらった力を拳に移動させる感覚で固く握ると、襲い来る鎧武者目掛けて突き出した。
しかし意図していた衝撃は無く、空を切る感覚だけが残る。破壊号は僕の正面から消えていた。
"上だ、平ちゃん!"
目線を上に向けると、大きく跳躍した破壊号が両手に装着された十の刃を僕に向かって振り下ろすのが見えた。
ざくり
今度は回避することができなかった。体を切りつけられ、傷口に徐々に痛みが走る。
僕は傷口を確認せんとするがしかし、その傷口はすでに塞がっていた。あとには鈍い痛みの残滓が残るのみだった。
「くそっ!」
僕は再び距離をとろうと跳躍を試みるが、今回は先ほどのような超反応は見られなかった。
「あ、あれっ?」
一瞬の空白の後、再び力が戻ってくる。反応が遅れた僕は破壊号の回し蹴りをまともに受け、再び壁際まで吹き飛ばされてしまった。ちくしょうなんて身軽な鎧武者だ。
"すまん平ちゃん、供給が遅れた"
月の申し訳なさそうな声が頭に響いた。
"一度に蓄えられる量は有限だ。不用意に使用すると底をついてしまうんだよ。まだ平ちゃんは扱いなれていないから、力の使い方が少し荒いのかもしれない"
なるほど。つまりさっきの空白は、一時的なエネルギー切れという事か。
「しかしなぁ…」
再び漲る力で失った体力を回復させる。
戦闘の素人である僕が、あんな戦闘兵器に勝つことなんてできるんだろうか。
「あ、そうそうへーじ君」
力の抜けるような口調で黒が言う。
「全身武器みたいな破壊号に対して丸腰っていうのもあまりに可哀想だから、武器をあげる。好きなのつかっていいよー」
黒が言い終えると、パカリと壁が開いた。大剣、銃、槍、大鎌、刀…中には実に様々な種類の武器が並んでいる。どれもゲームの中でしか見たことのないものばかりだ。
「ふん、どれでも好きな武器を使うがいい。どの道貴様には八つ裂きになる以外に道はないのだからな!」
ハッハッハと高らかに、鑢子博士の笑い声が聞こえた。
この人本当はこういうの大好きなんじゃないだろうかと思いつつ、僕は手近にあった武器を握った。




