70億人の友達候補
登場人物紹介
・平次…主人公。高校生。友達が少ない(いない?)。
・シイタケ…意外とアクティブでちょっとだけ口が悪い女子。
「ところで平次、お前友達っているの?」
凶悪な言葉をためらいもせずに放り込んでくるのは、口角を釣り上げてにこやかに笑うシイタケだ。
「な、なんだよ急に」
一瞬血の気が引いたあと、顔が熱くなる。
僕は動揺を隠しきれずに言った。
この質問は友達が多い者に対しては全く無意味であるが、その真逆の人間にとっては絶大な威力を発揮する。
もちろんシイタケは答えを知っていて聞いているのだ。
「…知ってるだろ。僕に友達はいないよ」
「え、いないの?一人も??」
シイタケは大げさに驚いて見せた。
「この星の人口って今何億人だっけ?同じ種がこれだけ蔓延っているってのに、ただの一人も気を許せる同族がいないんだ?」
普段はジト目がちな目を見開くようにして、さらに畳み掛けてきた。
いないけどさ…こうして一緒にお昼を食べてるお前は、僕の友達じゃないのかよ…。
お昼休み。僕たち二人は、屋上で昼食を取っていた。
学校の屋上は、本来封鎖されている。
というか、現実に存在する学校で屋上が開放されているケースなんてあるんだろうか。
あれは屋上に都合の悪い要素の無い設定の、二次元の世界だからできることだ。屋上から飛び降りる生徒もいないし、屋上から物を投げつける生徒もいない。そういう世界。
ではなぜ現実を生きる僕たちが屋上で開放的に昼食を取ることができるのかというと、屋上へ続くドアを、シイタケが破壊したからだ。ドアというか、ドアについていた曇りガラスを、だ。
破壊した後は、ご丁寧に[修理中]の張り紙で塞いだ。
「これで時間稼ぎぐらいにはなるだろうぜ…」
手に持ったバールのような物をヒュンとひと振りし、シイタケはニヤリと笑いながら言った。
確かに、ある程度はごまかすことができるだろう。
修理中ということは、近々治る予定という推測が建てられる。修理中ならばいいか…と、数回分の見逃し程度の、効果はあるかもしれない。
本当に時間稼ぎ程度だろうけど。
そんなわけで僕たちは、屋上で昼食を食べることができるのだった。
…戻したくもない話題に話を戻そう。
僕は目の前のシイタケを友達と思っているわけだけど、それを正直に言うのはためらわれた。
僕にも多少のプライドがあったし、仮にそれを言ったとしてもシイタケを面白がらせるだけだからだ。
しかし、このままでは圧倒的形勢不利であることに変わりはない。だったら言ってみてもいいんじゃなかろうか。
普段は凶悪なシイタケも、意外と女の子らしくその頬を染めてくれるかもしれないじゃないか。
よし、行くぞ。
「お前だよ、シイタケ。お前は僕の最高の友達だ。お前さえいれば、僕は孤独なんかじゃないさ」
「うわきも…俺の事そういう目でみてたのかよ。俺はお前の事友達と思ってなかったぜ。たかが昼飯一緒に食べてやってるくらいで調子にのるんじゃねぇよ」
蔑みの視線を一身に浴びてしまった。
うむ、想像よりちょっとキツかったけど、概ね予想通りの反応。
わかっていたさ。しかしわかっていても、やらなければならないこともある。前に進まなければならない時もある。
それが例え誰かの手のひらの上だったとしても、だ。
多大なダメージを負った僕は仰向けに倒れると、雲一つない大空を見上げた。