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イカシコロス  作者: 小雨
第一章 逸脱した彼の話
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鑢子博士

登場人物紹介

平次…主人公。現在研修中。

奈月…平次の研修に付き添い中。

鑢子(やすりこ)博士…技術部に所属している科学者。

昼食を終え、午前中に研修を受けていた教室へ戻ってきた。

食堂は特別混雑していたわけではないので、お昼休みには多少の余裕が残されていたのだ。

その体型からは想像もできないほどの量を昼食を食べた月は、食後の納豆サイダーを喉を鳴らしながら飲み下している。

「静さんはイカスモノなの?」

"いや。彼女は訓練こそ受けているが、いわゆる普通の人間だよ。諜報部に所属してる"

チョウホウブ……あぁ、諜報部か。

一瞬ピンとこなかったが、すぐに脳内で適切な漢字に変換された。

諜報部。つまり

「スパイ的な活動をしてるってこと?」

"うん、大体合ってる。ただ闇雲に動き回っているだけではコロスモノの後手に回ってしまうからな。対処が遅れると被害が大きくなってしまうケースも多いし"

あの時感じた凄まじい殺気は、その道で培われたものなのだろうか。

言われてみれば静さんの落ち着いた雰囲気も、なんだか納得できるような気がした。

「なるほどね…どんな組織でもやっぱり情報ってのは大事なんだなー」



地下なので外の様子はわからないが、柔らかな日差しに包まれて眠くなってくる時間帯だろうか。

「では午後の研修を始めるよー」

昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り終えるのとほぼ同時に、黒が前のドアを開けて部屋に入ってきた。

おや…?

黒は人影を引き連れて教壇の前に立つと、紹介を始めた。

「技術部の鑢子博士だ」

「よろしく」

紹介された人物は、ぶっきらぼうに一言だけ述べた。

そしてその横には、……鎧。いかにも戦国風といった出で立ちの鎧兜が置かれていた。

「午後の研修は、実技だよ。眠くなる時間帯だし、体を動かさないとね。さて、へーじ君には、この鎧と戦ってもらいます!勝利条件は、いいの一発入れるまで!鑢子博士に担当してもらうから、詳しくは博士に聞いてください。では博士、よろしくお願いします」

黒は博士に会釈すると教壇を退き、鑢子博士と紹介された人物と鎧だけが残された。

小柄だという第一印象を抱いたが…それにしても小さい。小学生と言われれば信じてしまいそうな大きさだ。教壇の後ろに立つと、顔しか見えないくらいだった。

「鑢子だ、よろしく」

低血圧なのだろうか、鑢子博士は呟くように言った。

「はい、よろしくお願いします」

技術部と言っていたが、彼女も普通の人間なのだろうか。しかし彼女からも、一般人とは言い難い雰囲気がにじみ出ていた。言わば、逸脱した側の人間の。

「平次君だったな。君には、この破壊号試作型と戦ってもらう」

「は、はぁ…それは…?」

「破壊号試作型だ。今言っただろう。オートで動く、まぁロボットのようなものだと思ってくれ。まだ改良の余地は多分にあるが、データ収集と君の研修を兼ねるという意味で、ここで投入することになった。見た目はレトロだが、中身はイカスモノ陣営の最新技術を搭載している。セカンド以上のコロスモノとの戦闘にも対応可能な設計にはなっているが、今回は研修に合わせて出力を押さえてあるから、そこは安心してくれ」

"月、あれは…"

"私も初めて見るよ。かっこいいなぁ"

なんだか他人事のような感想だが、どうやらこれからあれと一戦交えないといけないらしい当事者の僕としては、目の前の破壊号を注視せざるをえなかった。

鎧は深い朱色に染められている。形状から判断するに、どうやら二足歩行をするようだ。その両手には、指の代わりに刀が付いていた。また、よく見ると鎧の表面が刃状になっている。どうやら装甲であると同時に攻撃手段でもあるらしい。

なんというか…

「…非常に邪悪な造形ですね」

「…何?」

鑢子博士の眉がぴくりと動く。

「邪悪とは心外だ。心外であることこの上ない。私の行動はすべて正義の上に成り立っているのだぞ。軽率な発言は控えてくれ。すべての道具は使いようだ。正義である私が使う以上、私が関わるすべての事象は正義に通じるのだ」

何か地雷を踏んでしまったのか、鑢子博士は若干感情的になってしまったようだった。

「は、はぁ…えっと…すみません、言葉を間違えました…」

「…まあいい。早速戦ってみろ。…と言われても、まともな戦闘はこれが初めてらしいな。本位ではないが、君が戦いやすいように私が悪役をやってやる。勘違いするな、これは正義のためだ。正義のためなら、私は悪役の真似事など平気で行う事ができる」

「わ、わかりました」

「ふん、では行くぞ。破壊号!」

鑢子博士の声で、鎧武者の兜の中の瞳に明りが灯る。

と同時に破壊号の胴体部がパカっと開き、砲身が顔をのぞかせた。

「えっ」

「ふはははは、全てを無に帰せ、破壊号よ!」

爆炎の中、鑢子博士の声が響き渡る。そこにあったのは、ノリノリで悪役を演じる正義の科学者の姿だった。

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