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イカシコロス  作者: 小雨
第一章 逸脱した彼の話
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新人研修 2

登場人物紹介

平次…主人公。高校生。現在研修中。

奈月…平次の研修に付き添い中。平次には「月」と呼ばれる(呼ばせる)。

黒…平次の研修を実施中。

「はい、頼まれてたやつ」

僕は教室に戻ると、月に頼まれていた納豆サイダーを差し出した。

"ありがとう。……えぇと、ズタズタになった平ちゃんの顔については一応聞いたほうがいいのかな?"

「いや、別に」

壁に叩きつけられた顔面は、どうなっているのか想像もつかない。口の中は、まだ血の味がする。鏡を見るのが怖かったので、僕はそのまま教室に戻ってきたのだ。

"そうか、じゃあ聞かないよ。あ、ジュースありがとう。やっぱりこれがないとね…今時の炭酸飲料にしては珍しく、ちゃんと果汁入りなんだよ、これ"

「いや、その表現は色々とおかしい」


そんな事を話している間に

「じゃあ二時間目始めるよ。席についてー…って、もう着いてたか。さすが現役の学生だね」

先ほどの事など微塵も感じさせない様子で黒が教室に入ってきた。

「さて、前の時間ではコロスモノについての基礎的な事を学んだよね。では、そんな人間離れした力を持ったコロスモノに我々はいかにして立ち向かうのか。この時間は私たちサイドについて話していこうか」

黒は、黒板の真ん中に縦線を入れて区切りを入れ、右側に『イカスモノ』と大きく書いた。

「時に平次くん。君は先日コロスモノに半殺しにされたわけだけど、あの時の事は覚えているかい?」

「いや…意識を失ってからは覚えてないです」

「まぁ、そうだろうなぁ」

うんうんと、黒は頷く。

「まず、あの時何があったのか話しておこうか。つっきーが話せれば生の情報がわかるから、それが一番いいんだけどね」

おや、と思った。なんだか噛み合わない感じがする。月とは脳内で会話できているから、特に齟齬なく伝わると思うんだけど。

"話を合わせて"

思ったそばから月の声が頭に響く。ひとまず僕は月に従うことにした。

「傷だらけの女性を見て勇敢にも現場に飛び込んでいったへーじ君だったが、コロスモノに返り討ちにされてしまった。まぁこれは仕方ない。というか、一般ピーポーだった君にどうにかされてしまっては、逆に私たちの存在意義がなくなってしまうからね。で、君の意識はここで途切れるわけだが、その寸前に君はつっきーと契約している」

そういえば、と僕は思った。

「今更なんですが、その契約っていうのはなんなんですか?僕はそもそも、契約なんてした覚えはないんですが…」

「薄情なことを言うねぇへーじ君は。君は確かにしたはずだよ」

ガタンッ!

隣で月が立ち上がった。睨みつけるように黒を見ていた。

なんだか顔が赤くなっているような気がするのは気のせいだろうか。

「おぉぅ、ごめんごめん。まぁとにかく、そういう事なんだよ。晴れてつっきーと契約した君は、その力を持ってコロスモノをギタギタにしたんだよ」

僕は思わず両手を見た。どれだけ思い出そうとしても、その時の情景は蘇ってこない。

「ではなぜ瀕死だった君にそんなことできたのか。イカスモノが持つ力の一つがそれだ」

黒は黒板に、『治癒力の向上』と書く。

「一般人にとっては致命傷であっても、あれくらいの損傷であればそれなりの速度で回復していくのさ。ほら、さっき廊下で受けた傷も、もうほとんど痛まないんじゃないのかい?」

そういえば。

あれだけ激しく感じていた顔面の痛みが、いつの間にか引いている。恐る恐る顔に触れてみると、いつもどおりの触感が伝わってきた。

「なかなかすごいだろう?もっとも、治癒力にも限界はあるがね。君が助けに行った時にボロボロになっていた彼女…つっきーの前のパートナーだね。彼女は助からなかった」

黒の言葉に、嫌な感じに心臓が跳ねた。思わず月を見ると、彼女はじっと一点を見据えていた。

「乱子は強かった。理知的であり狂的でもあり、僕たちの中でもトップクラスの力を持っていたよ」

「…その乱子さんがやられてしまった相手に僕が勝てたのはどういうわけなんです?」

「つっきーから聞いたんだけどね、あの場にはもう一人いたんだ。君が来た時にはすでにいなくなっていた。そいつは包帯をぐるぐる巻きにしていて、顔は見えなかったらしいんだがね」

つまりそいつが乱子さんをやった、と。

僕は疑問を感じ、先ほど習ったばかりのことについて質問した。

「コロスモノは徒党を組まないのでは?」

「そう、確かにその通りだ。その通りなんだが、結果的にそうである、というニュアンスかな。別に同族で争いあうというわけじゃない。やつらは同族殺しだけはしないんだよ」

奴らの唯一の美点かもしれないねと、黒は皮肉そうに言う。

「同族と一緒に行動していては獲物の取り合いになってしまう可能性がある事を、奴らは本能的に知っているんだ。だから徒党を組まない。しかし、セカンド以上のコロスモノは必ずしもそうではない。憎々しいことに、奴らは理性的に行動することができるからね。何らかの目的のために、行動を共にする可能性はある」

「ということはあの場にいたもう一人というのは、上位の…」

セカンドか、或いは…。

「察しがいいね。教育者冥利につきるなぁ。…恐らくは王が動いている。乱子がただのセカンドに一方的にやられるはずがないしね。つっきーからも、セカンドとは違う力を感じたと報告を受けている。先の戦い以降王に動きはなかったから、これは憂慮すべき自体かもしれないね」

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