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イカシコロス  作者: 小雨
第一章 逸脱した彼の話
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I drink...

登場人物紹介

平次…主人公。高校生。現在研修中。

奈月…平次の研修に付き添い中。

黒…平次の研修を実施中。

休憩は十分間ねーと言い残して、黒は部屋を出て行った。

"平ちゃん、大丈夫か。ついていけてるか?"

僕を気遣うような月の声が頭に響いた。

「まぁ、ね…」

こんな話を突然聞かされても、僕は恐らくついていけなかっただろう。というか、まず信じられるかどうかが怪しいところだ。

そんな超能力を持った奴らがこの世界に存在しているなんて、まるで漫画やアニメの世界みたいだ。

しかし、実際に殺されかけ、月とテレパシーで会話し、こんな秘密基地まで連れてこられてしまえば、流石に信じないという選択肢はなくなってしまう。

それにしても…なんだか異様に疲れた。今までの常識では考えられなかった荒唐無稽な知識を吸収するのは、中々に骨が折れるようだ。僕は椅子を傾けて、大きく伸びをした。

「そういえば自販機があったな…ちょっと飲み物買ってくる。月は何かいるか?」

"おぉ、ありがとう。さすが、平ちゃんは気がきくな。それでは納豆サイダーをお願いするよ"

「…聞き間違いかな?いま納豆サイダーって」

"知らないのか?まぁ多少マイナーな炭酸飲料だからな。納豆のフレーバーが、意外と爽やかな炭酸に合うんだよ。爽快な炭酸飲料と粘っこい納豆との奇跡のコラボレーションたるや、"

「いや、説明しなくていいや」

残念なことに聞き間違いではないようだった。

"ここの自販機は、申請さえすれば好きな物を入れてもらえるよ。平ちゃんも何かあったら黒に言うといい"

僕は生返事をして立ち上がった。




「お前、新人?」

無事に納豆サイダーを購入し、さて何を飲もうかと選んでいるところで、背後から声をかけられた。

おそらく僕のことだろう。僕は納豆サイダーを持って振り向いた。

短髪の男子が立っていた。僕と同じくらいの歳だろうか。

「…そうです、たぶん」

「じゃあ奈月の新しいパートナーってのはお前のことか。ふーん」

突然視界が真っ暗になり、頭の中で火花が散った。


??あれ?何が


気がつくと僕は、大の字になって天井を見ていた。

頭が痺れる。鼻の奥が熱い。

遅れてやってきた痛みが飛びかけていた思考を呼び戻し、何が起きたかを僕に理解させた。

男は唐突に僕に近づき頭を鷲掴みにすると、コンクリートの壁に顔面から叩きつけたのだ。

「んだぁ、こんなもんも避けられねぇのかぁ?」

小馬鹿にしたような声と、パラパラとコンクリートの破片のような物が降ってきた。視界に、僕がたった今ぶち当てられたと思われる痕跡が見える。

廊下の壁はクレーターのように大きく凹み、ひび割れが走っていた。

おいおい…これ…僕大丈夫なのか……

恐る恐る自分の顔に触れてみる。感触は…なんだか自分の顔ではないようだった。普段凹んでいないところが凹んでいるし、手には赤いものがベッタリとついた。

「おーい、死んじまったか新人」

ケラケラと笑う男の声が廊下に木霊する。

「…」

僕は心が急速に冷えていくのを感じた。顔面の痛みをこらえつつ、ゆっくりと立ち上がる。

「死んじまったか、だと?」

「あん?」

「今のは死んでてもおかしくない、違うか」

「この程度で死ぬようじゃ、今後生きてなんていけねぇんだよ。選別してやったんだ、ありがたくおも…うぉっ!」

僕の握り拳が男の顔面に向かって伸びていた。しかしそれは男の顔面を捉えるに至らず、手前で叩き落とされる。

「先輩に向かって何しやがる、あぁ?」

僕は目の前の男を見た。身長は僕とそれほど変わらないが、その体躯は明らかに鍛え上げられたものだった。

「んだその目…もう一回めり込んどくか?」

「お前に人を殺す権利なんてないんだよ」

何が選別だ。誰にだって、生殺与奪の権利なんかない。

理不尽に奪われていい命なんて、ない。一気に冷めていた僕の心が、今度は熱くなるのを感じた。

「お前みたいな奴が……っ!」




「二人共、そこまでだ」

ここ数日で聞きなれてしまった声が聞こえた。

黒は僕と男の間に入って静かに言った。

「花、警告だ。次はない、わかったな」

普段ゆるい言動が目立つ黒とは思えないほど、そのセリフは鋭さを帯びていた。

「だ、だってよぉ…」

「警 告 だ。わかったな」

有無を言わさぬ口調だった。

わ、わかったよと言い残し、花と呼ばれた男は立ち去った。

「さ、へーじ君も戻ろうか。そろそろ休み時間終わりだよー」

再び声を発した黒は、いつもの調子に戻っていた。

「彼についても後でちゃんと紹介するよ。そんなに悪い子じゃないんだよー」

と言われても、出会い頭に顔面から壁に叩きつけられた僕としては、マイナスのイメージを持つなという方が無理だろう。そうでもなければ真底のお人好しか真性のどエムだ。

「…あー…ぃってぇ………ん?」

歩き出した僕の足にコツンと何かが当たり、廊下を転がった。

「う…わ…」

その圧倒的存在感に、思わず息を呑む。

そういえば僕は飲み物を買いに来たんだった。

破裂した納豆サイダーの缶からどろりとした液体が溢れ、じゅくじゅくと流れ出ていた。

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