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デートインザストーリー

デートインザゲレンデ

作者: フィーカス

「デートインザドリーム」or「デートインザトラベルプラン」~「デートインザスノーガーデン」の続きの話です。

 ……ここから登場人物との絡みが延々続くと思うと、なんか面倒です(←

 昼食を終えると、メンバーはホテルに戻ってチェックインの手続きを行った。

「チェックイン終わったら、ロッカーの荷物をそれぞれの部屋に運んでね」

 茶髪のロングヘアが似合うお姉さんタイプの女性、栗畑千香(くりはたちか)はフロントでてきぱきと指示を出す。その指示に従い、メンバーは各々荷物を持って部屋に向かった。

「えっと、私たちの部屋は……」

 手にした部屋割りを見ながら、加藤有子(かとうゆうこ)はエレベーターの前に立っていた。

「有子ちゃん、私たちは三階の304号室だよ」

 有子の隣に、ツインテールの眼鏡っ子、三堂成美(みどうなるみ)が並んで立った。

「部屋割り見ると皆三階だね。エレベーター大丈夫かな」

「大丈夫だよ、だって、十人まで大丈夫って書いてあるし」

 エレベーターの外にはそんな情報は書いてない。成美はいつの間にエレベーターに乗ったのだろうか。

「おお、エレベーターはまだやな。うちも乗せて」

 白いコートを着た女性、三波彩花(みなみさいか)が、荷物を二つ持ってこちらにやってきた。

「あれ、彩花、こんなに荷物あったっけ?」

「いやいや、片方はちーちゃんの。うちがこんなに荷物必要なわけないやろ」

「ああ、千香、荷物いっぱい持ってきてたもんね」

 有子と彩花が話していると、エレベーターがちょうど降りてきた。

 有子たちがエレベーターに乗ろうとしたとき、遠くから背の高い黒いジャケットを着た男があわててやってきた。

「ちょ、ちょっと、待った、俺も乗せてくれ!」

「あらタツト、あんたは階段使ったらいいんじゃない?」

 彩花は有子と成美がエレベーターに乗ったことを確認すると、容赦なく「閉」ボタンを押す。

「ちょ、三波、それはひどいって」

 閉まる寸前で、その男、高野達人(たかのたつと)はエレベーターの扉に手をかけて閉まるのを阻止した。


 三階の渡り廊下は、どこかで見たような見ていないような、ひし形が並べられた幾何学模様をしたジュータンが敷かれていた。その上をふかふかと歩いていくと、有子たちの部屋である304号室にたどり着いた。

「じゃあ、また後でね」

 部屋が別の彩花、達人と別れると、有子は自分の部屋のカードキーを差し込む。ドアノブを動かすと、ドアはゆっくりと開いた。

「わぁ、結構いい部屋じゃない?」

 ビジネスホテルによくあるようなツインベッドの部屋だが、奥の窓を開けるとベランダになっていた。

 荷物を置いた成美は、すぐさま窓を開けてベランダに向かった。有子も荷物を置くと、成美の後を追った。

 窓を思い切り開けると、冷たい風が吹き込んでくる。部屋の温度が下がるとまずいので、有子は成美とベランダから出た後、すぐに窓を閉めた。

 ベランダからは、ゲレンデが一望できるようになっていた。外から見るゲレンデは、バスから見たそれと同じように、下から見た世界とはまるで違う世界が広がっていた。

 ベランダは三階の部屋すべてが繋がっている。千香の話によると、ホテルは個室になっているが、ここ三階は団体で来てもいいようにとのことで、ベランダを繋げてあるらしい。

「うわぁ、有子ちゃん、見て、リフトがいっぱいあるよ」

「いろんなコースがあるらしいからね。コースごとにリフトも設定されてるのかな」

 リフトを良く見ると、かなり高いところまで運ぶものから、すぐ近くまでしかないものまでさまざまだった。リフトの終わり地点からさらに続くリフトもあった。

「とりあえず、成美は初級コースが滑れるくらいまで練習しないとね」

「べ、別に私は滑れなくても……」

「せっかくだからさ、一緒に滑りたいじゃん」

「それもそうだけどさぁ」

 半分涙目になりそうな成美を見て、有子はフフッとおどけた。

「それにしてもこの格好じゃさすがに寒いわね。そろそろ戻ろうか」

「そうだね」

 銀色に輝くゲレンデの風景を後に、有子と成美は部屋に戻る。

「あ、そろそろ下に下りないと。千香たちが待ってるよ」

 そういいながら、有子はベランダの窓を閉めた。

「えぇ、もう行くの? せめて、お菓子を食べてから……」

「……さっき昼食食べたばっかりでしょ? ほら、行くよ」

 荷物からおやつを取り出そうとする成美の手を引き、有子は部屋から出た。


「有子、成美、遅いよ」

 ホテルのフロント前に行くと、既に千香たちメンバーが集まっていた。

「ごめんごめん、成美がどうしてもお菓子食べてから行くって言うから」

「でも有子ちゃんひどいんだよ、お菓子に恋焦がれた私を、無理やり引き離すんだから」

 お菓子が食べられず、成美は膨れた顔をする。

 と、ホテルの自動ドアが開き、一人の男性が入ってきた。千香の髪の色よりも濃い茶髪で達人よりも背が高く、青と白を基調としたオシャレな上着を着ている。

「あ、小塚(こづか)先輩、遅かったね」

 小塚と呼ばれた男は、ごめんごめんと右手を頭にやりながら、こちらに合流した。

「あ、知らない人もいるから紹介するね。演劇部の小塚(すすむ)先輩」

「小塚だ。演劇部の人は知っているだろうけど、初めての人はよろしくね」

 進がよろしく、と礼をすると、進と初めて会った有子と成美は「こちらこそ、よろしくお願いします」と返した。

「さて、これからだけど、基本は自由行動。ただ、成美と彩花は小塚先輩に練習コースで滑れるようになるまで練習ね。自信の無い人も小塚先輩についていってね」

「えぇ、うちはちーちゃんたちと滑りたいぃ」

「彩花、初級コースでも結構きついから、きちんと滑れるようになっておかないと怪我するよ。大丈夫、今日一日あれば滑れるようになるから」

 うぅ、とうめく彩花を、千香は一喝する。

「あ、あとこれ。リフト券。とりあえず今日の分ね。スキーウェアの腕のところに入れるところがあるから、そこに入れておいてね。リフトに乗るときはそこを見せればいいから」

「なんだ、リフト券入れるところあるじゃない。千香ちゃん、この前買った小銭入れ無駄になったんじゃない?」

「小銭入れは小銭入れ。ちゃんと入れてフック引っ掛けときなさいよ」

 千香は手早く持っていたリフト券を全員に配った。

「栗畑さんは、相変わらず準備がいいね」

 千香からリフト券を渡された進が、千香の行動に感心しながら言った。

「ま、まあ、このくらいは当然ですよ。えっと、リフト券は皆持ったかな」

 全員にリフト券を配り終えると、千香は一人ひとりリフト券を持っていることを確認した。

「じゃあ、それぞれ着替えて楽しんでね。あ、私は初級コースに行くから、一緒に行く人はついてきてね。あと、何か困ったことがあったら私のところかフロントに電話してね」

「あれ、栗畑さんは中級か上級コースじゃないの?」

 千香の腕前を知っているのか、進が千香に尋ねた。

「初めての人もいるから、私が一緒じゃないと不安だと思います。 それに、旅行は三日もありますから」

 何の意図か、千香は小塚にウインクで合図した。

「夜は六時フロント集合ね。それじゃ、質問が無ければ解散!」

 千香の合図と共に、メンバーはそれぞれロッカーに向かった。


 少し雲はあるものの、からりと晴れ渡る空。雪が解けてしまうのではないかと心配するほど強い日差しが襲い掛かるが、それを押しのけるほどの冷たい風が吹き抜ける。

「うわぁ、本当、これ日焼けするわ」

 眩しい太陽の光を右手でさえぎりながら、有子は呟いた。 

 部屋に向かう直前、「日焼けするから」と千香に渡された日焼け止めクリームを塗っていたが、ようやくその意味を理解した。

「雪山って、太陽と近いから、冬でも日焼けしやすいのよ」

 リフト乗り場へ向かう道中を、千香が「言ったとおりでしょ?」と言いながら進んでいく。

 レンタルショップからほど遠くない場所に、初級コース行きのリフト乗り場はあった。

 リフト乗り場には、既に結構な数のスキー客がいる。が、思いのほかさくさく進んでいたので、そこまで待たずに済みそうだ。

「さて、リフトに乗るのは初めてだと思おうけど、注意事項が一つ」

 千香はびしっと、人差し指を全員の前に突き出した。

「リフトの降り口に来たら、速やかに降りること。そして降り口で止まらずにすぐに前に進むこと」

 降り口で止まってしまうと、次の客にぶつかって危ないから、と加えた。

「最初は怖いかもしれないけど、慣れてしまえばそうでもないわよ。じゃあ、並びましょうか」

 そのままぼうっとしているとおいていかれるほど、リフト乗り場に客が集まってくる。その最後尾に、何とか有子たちは並んだ。

「えっと、私は千香の隣でいいのかな」

「そうなるわね。ほかは……まあ、いい具合にバラけたかな」

 千香の後ろには達人と中学生の佐藤有斗(さとうゆうと)、その後には一年生の新名太志(にいなたいし)と、有斗と同じく中学生の佐藤達真(さとうたつま)がペアになっていた。

「さすがに中学生同士だとちょっと不安だからねぇ」

 千香が話しているうちに、有子と千香がリフトに乗る番となった。

「ここで待っていればいいの?」

「そうよ。ほら、来たから流れに逆らわずに座るの」

 係りの人がリフトの席の雪を払うと、まもなくリフトが有子たちの近くにやってきた。

 千香の言うとおり、リフトの取っ手をまず持ち、前に動くリフトの流れに沿ってゆっくりと座った。

 座った直後、スキー板から地面がふわりと離れ、徐々にリフトと地面との距離が離れていく。

「うわぁ、こんな高いところから落ちたら大変だね」

 リフトの下は一瞬にして数十メートルの高さに達していた。

「まあ、そのためにネットがあるんだけどね。普通はじっとしていれば落ちないよ。それよりも、ここから物を落とすことのほうが多いから、そっちのほうを注意しないとね」

 そう言われ、有子はあわててポケットのチャックを確認した。その様子を見て、千香はくすくすと笑う。

「でも、リフトからの眺めも結構きれいだよね」

 リフトの横では、ゲレンデをきれいに滑り降りる子供の姿や、転んで起き上がろうとする女性の姿など、さまざまなスキー客の姿があった。

「この景色も、スキーの楽しみの一つかな」

 有子が眺めるゲレンデを一緒に眺めながら、千香はふぅ、と息をついた。


 リフトの頂上まで行くと、有子と千香は近くの足場で全員が降りてくるのを待った。ひとまず最初だから、一緒に滑ろうか、とのことらしい。

 残ったメンバーも、何とか無事リフトから降りられたようだ。多少、達人があたふたしていたように見える。

「今日は人があんまりいないからいいけど、人にぶつかりそうになったら自分からこけてぶつからないようにしてね」

 そう言うと、千香は颯爽と初級コースのなだらかな斜面を下りて行った。

 その姿に、全員がおお、と歓声をあげそうになった。

 ある程度のところまで滑ると、千香はしたから手を振った。どうやら、ここまで滑って来いとの事のようだ。

「じゃあ、私たちも行こうよ。高野君、先に滑って」

 有子は何故か達人に振った。

「え、何故に俺? 加藤さん先に滑りなよ」

「いや、だって……」

 有子が達人の後ろに視線をやる。達人がその視線の先を見ると、太志と有斗が何故か期待のまなざしを達人に浴びせていた。

「高野先輩、お願いします」

「いいところを見せてください!」

 白雪のように、キラキラと輝く後輩達のまなざし。

「ちょ、そんな期待されても」

「高野君、男の子なんだから、さあ」

 有子も何故か煽る。

「うぅ、仕方ないなぁ。見てろよ、惚れても知らないからな!」

 ヤケになったように、達人はスキー板をまっすぐ斜面の下に向け、スティックを構える。勢い良くスティックを動かすと、凄い勢いで左方向に曲がって進んだ。そして、数メートル先の急になった斜面のところで思いっきり転んだ。

「あちゃぁ……」

 有子は思わず右手を目にやる。が、後から「かっこいい!」という声が聞こえた。

「え、有斗、さっきの何がかっこいいのさ?」

「だって、高野先輩、滑り始めたときに、人にぶつかりそうになったから、とっさに左に曲がって自分から転んだんでしょ? あんなとっさな判断できるなんて、かっこいいじゃないですか」

 何故か興奮気味の有斗。

 そういえば、達人が滑り始めた直後に誰かが達人の目の前を横切った気がするが、多分偶然だろう。



 達人が何とか千香のところまでたどり着くと、太志たちも次々と斜面を滑って行った。思いのほか上達していたようで、有斗と達真は転ばずに千香のところまで滑り降りていた。

 続いて有子も滑り降りる。千香にも負けないくらい、右へ左へとうまく滑っていく。そして、スキー上級者が良くやるような、両足をそろえたきれいなブレーキングで千香の前に止まって見せた。

「おお、さすがユウ。やっぱり運動部は違うねぇ」

 思わず千香がぽふぽふと拍手をする。

「え、うん、まあ、まずまずかな」

 ゴーグルをはずし、思わず照れる有子。

「まあ、でも皆そこそこ滑れるみたいだから、私はもう一緒じゃなくていいかな」

「え、ちょっと、千香?」

 そう言うと、千香は同じく颯爽と下まで降りて行った。

「うーん、大丈夫かなぁ。とりあえず、私たちも降りようか」

「よし、今度こそ……」

 滑ろうとした有子よりも先に、達人が滑り始めた。

 が、ゲレンデを横断したと思ったら、反対側で曲がりきれずに転んでしまった。

「……高野君、大丈夫かな」

 達人を心配する有子を尻目に、太志たちも次々滑り降りていく。


――それでも彼女は、抵抗しなかった――


 有子以外が滑り終えたと思った瞬間、ふと有子の耳にそんな声が入ってきた。

「……え?」

 あたりを見回したが、目の前には滑り始めたばかりの有斗と達真の二人しかいない。

 もうこれで三度目。一体、この声は何なのだろうか。

 気になりながらも、有子はコースを滑り降りた。



 初級コースを何回か滑るうちに、全員慣れてきたようだ。

 もちろん転ぶことはあるが、一週目よりはかなり上達している。

 有子も、一人で初級コースを満喫していた。途中で見たことある中年男性が派手に転んでいた気がするが、颯爽とスルーした。

 そろそろ中級コースでもいいかなと思い始めたところ、下で誰かが転んで動かない状態になっているのに気が付いた。

「あれ、どうしたの? 大丈夫?」

 近づいてみると、倒れているのは有斗のだった。そばで太志が必死に起こそうとしている。

「あ、加藤先輩、有斗が足ひねっちゃったみたいで……」

 有斗は必死に立ち上がろうとしているのだが、力が入らないのか、うまく立てない様子だ。

「えっと、ひとまずスキー板はずして、向こうのロッジに運ぼうか。スキー板持ってあげるから、肩貸してあげて」

 そう言うと有子は自分と有斗のスキー板をはずし、太志のスキー板と一緒に抱えた。太志は有斗に肩を貸す。

 途中で気が付いた周りの人が数人手伝ってくれたおかげで、何とか近くのロッジまで運ぶことができた。


 休憩用の木造のロッジは救急時の治療室も兼ねているようで、いくつか病院で見られるベッドが並んでいた。

 有斗はそのうちの一つに寝かされた。しばらくして医者が来て、有斗の足を診る。

「あの、有斗君、大丈夫ですか?」

 しばらく有斗の足を見ていた医者に、有子が心配になって聞いた。

「多分、こけたときに少し足を傷めたみたいだね。しばらく休んでいれば治ると思うけど、一応テーピングしておくよ」

 そう言うと、医者は包帯を取り出し、有斗の足をぐるぐると巻き始めた。

「よかった。私は千香にこのことを連絡しておくよ。新名君は、先に行って続きやってて」

「え、でも有斗は……」

「有斗君は私が見てるから。戻ってきたときにうまくなっているように、練習しておいで」

 有子が言うと、太志は「有斗のこと、よろしくお願いします」と言ってロッジを後にした。

 太志が出て行くのを見届けると、有子は千香に電話し、有斗がけがをしていることを話した。

「千香がすぐ来るらしいから、それまでは私がそばにいるわ。有斗君はゆっくり休んでて」

 有子は有斗が寝ているベットの近くにある椅子に腰掛けた。

「僕は大丈夫です。加藤先輩も、僕のことは気にしないで……」

「ダメダメ、誰かがついてなきゃ。えっと、何か飲む?」

 ロッジの周りを見て自動販売機を見つけた有子は、椅子から立ち上がって飲み物を買いに行った。

 さすがに雪山価格だったが、そうも言っていられない。とりあえずコーヒーを二つ買い、一つをテーブルに置いた。

「あ、ありがとうございます」

 ゆっくりと体を起こすと、テーブルに置かれたコーヒーを手に取った。

「そういえばさ、有斗君はどうしてこの学校に来ようと思ったの?」

 程よい香りの熱々のコーヒーを、息を吹きかけて冷ましながら、有子は有斗に聞いた。

「お姉ちゃんの勧めで、高校の演劇部に顔を出すことにしたんです」

「お姉ちゃん?」

「はい」

 有斗の言う「お姉ちゃん」という言葉が、妙に引っかかる有子。

「えっと、僕のお姉ちゃん、佐藤有子って言うんです。確か三組だから、加藤先輩と同じクラスのはずですけど」

「佐藤有子……」

 もちろん、有子にはその名前に心当たりがあった。一番の親友だったのだから。

「うん、もちろん知ってるよ」

「お姉ちゃん、恥ずかしがり屋だから、何でか僕まで高校の演劇部に連れて行かされたんです。あ、もちろん授業のあとですけどね。僕の学校、高校から近いから」

 有子たちの高校では、中学から高校への進学を考えている学生に学校生活の体験してもらおうと、中学二年生と三年生を対象に、放課後部活動の体験をさせている。

 その制度を利用して、有斗と達真は演劇部の体験入部をしていた。

「入ったころはお姉ちゃん、人と話すのが苦手みたいで、すぐ僕に話を振ってくるんです。あの時は中学生の僕にどうしろと、って思ってたんですけどね」

 姉の思い出を語りながら、有斗は手に持ったコーヒーをすする。

「でも、しばらくしたら、少しずつ明るくなっていったんです。何でも、親友ができたって」

「親友?」

「はい。確か同じ名前だからっていう理由で……あ、もしかしてその親友って」

 思い当たったように、有斗は有子の顔をみた。

「うん。私も名前が有子だからね。有斗君のお姉さんを私はユッコ、私のことはユウって呼び合ってたの」

「そうだったんですか……」

「たしかに、ユッコはあまり他の人と話したがらなかったね。私以外と話しているのは、あまり見たことがないかな」

 コーヒーを片手に、有子は窓から見えるゲレンデを見た。

「あの頃は楽しかったな。いつも二人でいろんな話をして」

 有子は、有斗の姉、昔の親友との思い出を、有斗に話した。

 一緒に帰ったこと、遊びに行ったこと。

「そのとき、ユッコったらね」

「僕は」

 有子が話していると、有斗が途中で声をあげた。

「お姉ちゃんのその、親友の人にずっと感謝してたんです。あのお姉ちゃんが、高校に入ってから、だんだん学校に行くのが楽しくなっているように見えたから」

「へ、それって、私?」

 思わず有子は、自分の顔を指差した。

「そうですね。それが加藤先輩だったんですね。よかったです。優しそうな人で」

「ま、まあ、優しいかどうかは別だけどね」

 有斗の言葉を聞いて、有子は少し赤くなった。

「でも、お姉ちゃんは、あの事件で……」

「あの事件……か」

 約一ヶ月前、有斗の姉佐藤有子は、家の最寄り駅である動物園前の駅の女子トイレで誰かに殺害された。いまだに、犯人は特定されていない。

「……ユッコ、お姉ちゃんを殺した犯人、捕まるといいね」

「……うん」

 その事件のことを思い出し、空気が重くなる。

 そのとき、冷たい風が吹き込んできた。ロッジの入口を見ると、千香が入ってきたのが見えた。

「有斗君、大丈夫?」

「あ、栗畑先輩、僕は大丈夫ですよ。ちゃんと処置はしてもらいましたから」

 有斗が言うのが早いか、千香はすぐさま有斗のそばに駆け寄り、テーピングしてある足を見た。

「うわ、何この巻き方、やったの素人? うわ、熱持っちゃってるじゃない。有子、外から雪持ってきて!」

 千香の怒鳴り声に、「は、はいっ」とすぐさま有子は外に向かい、雪をひとすくい持ってきた。その間、千香は目にも留まらぬ速さで包帯を解き、巻きなおしていた。

「千香、どこでそんなの覚えたの?」

「何言ってるのよ。これくらい覚えておかなきゃ、雪山じゃ遭難するわよ。私何年スキーやってると思ってるのよ」

「いや、まさか医者の処置をやり直すほど手馴れてるとは……」

「ここは私がやっておくから、有子はさっさとスキーを楽しんでらっしゃい!」

 あまりの千香の勢いに、多分このままここにいても邪魔になるだろうと、有子はロッジから出てゲレンデに向かった。


「……あれだけ手馴れてるってことは、かなりの数のけが人を治したってことよね。千香は死神か何かなのかしら……」

あとがきキャラクターメモ。


・佐藤有子:高校二年三組、演劇部所属

佐藤有斗の姉で、加藤有子の親友。

一ヶ月前に家の最寄り駅である、動物園前の駅の女子トイレで殺害され、いまだに犯人はわかっていない。ちなみにネタバレは「デートインザドリーム」~「デートインザヘヴン」に書かれている。

コミュニケーションをとるのが苦手で、親しい人以外とはほとんどしゃべらない。他人と話すときは有斗を通している模様。比較的アクティブな有斗とは真逆の性格。

加藤有子とは同じ「有子」ということで、「ユッコ」という愛称で呼ばれている。

……人前に出るのに演劇部なんて入って大丈夫だったのだろうか。


・小塚進:高校三年生、演劇部所属

演劇部の先輩。他にも三年生はいるが、受験が近い人が多く、スキー旅行に参加したのは小塚だけ。

身長がとても高くイケメン。描写にはないが、結構モテる。

役者としても舞台監督としても非常に評価が高い。

千香と同じくスキー暦が長く、指導力の高さもあってスキー初心者への教え方もうまい。そのため、千香からは初心者指導の役目を与えられた。



……どうでもいいけど、チートリーダーシップな千香と食いしん坊成美と独特なしゃべりの彩花がキャラ立ちすぎているせいで、主人公のはずの有子の影が薄くないだろうか(汁

あと男キャラもう少し頑張れ(←

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