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自由

作者: 日下部 龍

 出されたお題を基に百分間で物語を作ろうと言う企画で生み出された小説の一つ。お題は「いつまでも見てるわ」と「嬉しい」

「いつまでもあなたを見ててあげる、あなたは私が守ってあげるわ、私の大事な大事な子。」

 母は、お話に出てくる聖母様のように慈愛に満ちた顔で、しかし内側に狂気を孕んだ声音で、毎晩お決まりとなっているこの言葉を私にかけると部屋を出て行った。直後、鍵を回す音が聞こえる。これでもう誰もこの部屋に入ってくることは出来ない、誰ももう出ていくことは出来ない。

 私は、独りになってやけにだだっ広く感じる部屋を見回しながらベッドに横になると、思考の渦に身を投げた。これも、眠る前のお決まりになってしまったことだ。


 私は物心ついたときから、ずっとこの部屋の中で生きてきた。母が何故私をこの部屋に閉じ込めているのかは分からない。ただ私には、この部屋の中だけが世界の全てだった。

 母は私が望むものを何でもとまではいかずとも、与えてくれた。そのおかげでこの部屋には膨大な数の本があった。切掛けは、母が私が退屈してやしないかと持ってきた数冊の本だった。この部屋の中だけが私の世界だったのはそれまでだった。それ以来、私の心はまだ見ぬ広大であろう世界への憧れに囚われていた。

 何としてもこの部屋を飛び出て外の世界をこの目で見てみたい。そう思い続けて長い月日が経った。そして私は、その感情に突き動かされるままに部屋中を調べて回った。

 石で周りを囲まれた壁、ドアもとてもじゃ無いが体当たりでは押し開けれそうにない。そんなことをしても私が痛い思いをするだけだろう。

 部屋に一つだけの窓に目をやる。鉄格子があるものの、何とか通り抜けることは出来るかもしれない。だがそんなことをしてどうなるのだろう。この部屋は高い塔の上階にあり、そこから無策に身を投げ出すことなど自殺行為だ。

 床にも天井にも、抜け道なんて都合の良い物は有りやしない。物語よろしく何処かに隠しスイッチがあるなんてことも無い。

 だが、私は今日こそこの部屋を脱出してみせる。その為に必要な道具の全ては、母が用意してくれた。無論彼女はそうとは知らないだろうが。私は、母が既に眠りに就いていることを祈りながら、ベッドから身を起こすと、脇に積まれた毛布やシーツ、衣服の山、更につい先程まで横になっていた布団をつなぎ合わせて、一つの長大なロープにした。

 後はこれをベッドの足に括り付け、鉄格子をくぐらせれば梯子のかわりになる。強度が少しばかり心配だが、途中で落ちてしまうならそれが私の運命なのだろう。ほんの一瞬でも外に出てみたいのだ。私は、今までその夢を頼りに生きてきたと言っても過言では無いのだから。

 やっとだ、やっとこの部屋を出て夢見つづけた外の世界との邂逅を果たすことが出来るのだ。私は歓喜の念とともに、脱出の方法に知恵を貸してくれた本たちを感謝しながら部屋を後にした。



 翌朝、母親が娘の部屋を訪れるとそこはもぬけの空だった。母親は手に持っていた食事をとり落とすと、地の果てまで届きそうな程の声で泣き叫びながら半狂乱となって部屋中を探し回った。

「どうして、どうして、どうして。ジェームズやサラだけじゃなくてどうしてエレナまで奪っていくのよ。ねえ神様。」

 彼女は立っているのも辛くなったかのようにその場に座り込むと泣き続けた。しばらくして、彼女は急に泣くのをやめると、窓からその身を投げ自ら命を絶ってしまった。


 エレナは何も知らない。

 書いている最中は全く意識していなかったのですが、ラプンツェルンによく似た話となってしまいました。

 細部は違うとはいえ反省してます。

 この親子の過去はご想像にお任せします。分かりやすいとは思いますが。

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