小さな思い。
「おはよう」
その一言で始まる一日。
今日もまた、新しい一日が始まろうとしている。
カーテンの隙間から差し込む光が、なんとも眩しい。
すると少年が一人、この店に入ってくる。
あの少年は、いつもここに来るんだ。
そして必ずといって僕をじっと見るの。
そんなに見られると、照れちゃうってば。
「なぁ、お前。今日も元気だな」
そう言って、彼は笑う。
優しい笑顔。
僕は、知らず知らず笑い返していた。
「あれ?また来たのかい、カイくん」
「あっ、おはようございます、店長さん。今日も来ちゃいました」
「今日もコイツに用事か?」
そう言って、店長さんは僕を見る。
少年、カイは、コクンと頷いた。
店長さんはそれを確認すると、僕を抱き上げ外に出してくれた。
その瞬間僕は、勢いよくカイの胸へと飛び込んだ。
「おいおい」
カイは優しく抱きしめてくれる。
暖かいなぁ。
「特別だからな。今日もよろしくな」
「もちろんです!いつもありがとうございます!」
「礼はいいさ。じゃあ、俺は仕事に戻るから後よろしく!」
「はい」
僕は、店に戻る店長さんに手を振った。
店長さんも、手を振ってくれる。
カイと店長さんは仲良しで、僕はトクベツらしい。
何ヶ月か前に、二人が何か話し合ってたし。
それからだよ。
僕が外に出ることになったのは。
僕には二人の話が難しいから、よくわからないんだけどね。
でも、カイは僕を必要としてくれてるみたいなの。
だから僕は、カイの役に立ちたいんだ。
着いた場所は、いつもの公園。
カイは抱いていた僕を下ろして、近くにあるベンチに座った。
僕もカイの横に座る。
「・・・はぁ」
カイが小さくため息を一つ。
僕はカイを見る。
カイの見つめる先は、向かいのベンチ。
そこに座る一人の少女。
いつもそうだ。
カイは、あの女の子を見る度にため息をする。
僕はこんなカイ、もう見たくないよ。
思い切って、僕は立ち上がる。
そんな顔するのは、今日で最後だよ。
僕は走る。
あの女の子に向かって。
「おっ、おい!どこに行くんだよ!」
カイの言葉を無視して、僕は走り続ける。
そして、勢いよく女の子に向かってジャンプ。
女の子はビックリして、僕を抱きしめる。
「えっ、あの・・・」
「ごめん!・・・大丈夫?」
「・・・大丈夫です。えと、あなたはよくこの公園に来てる人ですよね?」
「はい・・・そうですけど」
「やっぱり!よかった、人違いだったらどうしようかと思っちゃった」
女の子は立ち上がり、カイを見ながら話す。
あれ?
カイったら、どうして顔が赤いの?
「この子とよく来るの、結構見かけるから」
女の子は、僕の頭を撫でてくれる。
僕は嬉しくて、女の子の顔を舐めた。
「ふふっ、くすぐったい。ねぇ、この子は何て名前なの?」
「・・・名前はまだ無いんだ」
「どうして?」
「実は、俺が飼ってるんじゃないんだ」
そうして、カイは僕のことを話す。
僕がペットショップに売られていることを。
女の子は黙って話を聞いていた。
「だから・・・」
「じゃあ、一緒にこの子に名前を決めようよ」
「えっ?」
「だってこの子と仲がいいんでしょ?なら、名前がないと!」
僕はカイを見る。
カイも僕を見た。
カイの出した答えは・・・。
「・・・うん」
朝とは違う空気が流れる午後。
僕は、カイの腕の中で寝ていた。
昼間は走り回ったから。
それに、カイがこんなに嬉しそうなんだもん。
「店長さん。ありがとうございました!」
「どうだった?今日は」
「今日は、もうすごいですよ!あの子としゃべっちゃいました」
「そうか、それはよかった」
「それに・・・名前を決めたんです」
「名前?・・・コイツにか」
「はい」
僕は、ゆっくりと目を覚ます。
見上げればここは、お店。
そして、店長さんと話すカイ。
「この子の名前は―」
そっか、僕の話をしてるのか。
僕はやっぱり眠気に負けて、寝てしまう。
今日は本当に楽しかった。
いつもの終わりは、バイバイ。
だけど今日は「またね」だった。
また、会うんだよ。
明日になれば、また、ね。
そして、二人の恋もこれからだよ。
ま、犬の僕が言うのはおかしいかもしれないけどね。