第八章 追憶からの解放 在りし日
月の色がやけに赤みを帯びて夜空に輝く。
それは、聖堂の奥で静かに始まっていた。
「それではついに!」
感極まったような表情で一人の男が声をあげた。
「そうです」
威厳に満ちた声は、重々しく告げた。
それと同時に、聖堂内が控えていた数人の男たちが一斉に喜びの声をあげた。
「ようやく、あの忌々しい宰相から王国を取り返す事ができるのだ」
強く握り締めた拳を震わしながら天を仰ぐ。
「この十年、どれほどの辛酸を嘗めてきたか」
苦々しい表情で吐き捨てるように呟く。
「奴が行った政策の為に、俺は多くの財産を失った」
呪詛にも似た言葉だった。
「お静かに」
熱気を帯びた堂内は、一瞬にして静寂に包まれる。
皆、男の言葉を、固唾を呑んで待つ。
「教会は、かの宰相が国王を惑わし国の財を我が物とする事を見逃すわけにはいかない。また、貴方たちの調査の結果あらわになった異端者とのつながり。このまま放置するわけにはいかない」
威厳に満ちた口調だった。
「しかし、教会としても大国レガリオンの中枢に異端者が潜り込んでいたなどと触れ回れば国内が混乱に陥る事は目に見えている。それは教会の望むところではない」
眉間にしわが寄る。
「したがって、この事に関して我々教会は表立った協力はできない。あくまで、革命は貴方たちの手で成し遂げてほしい」
生唾を飲む音が聞こえた。
「成功した後は、この革命が正統なものだったと聖下は公認して下さるだろう」
聖堂内に歓声が広がった。
「お心使い感謝します」
盛大な拍手をする者、感極まった表情で拳を握り緊める者。
密かにほくそ笑みながら、サイモン枢機卿は参加者たちを見回した。