第八章 追憶からの解放 在りし日
あの人は、気高く、美しく、そして強かった事を覚えている……
まだ、世界が目覚めていない早朝。
山の端から日の光が滲み出る頃。
どこまでも続く平原の中、二人の人影が剣を片手に激しくぶつかり合っている。
一人は年の頃十七、八の少年。
恵まれた長躯なのだが、まだまだ線が細くどこか頼りない。
大振りの剣を手に取りそれを力任せに荒々しく振るう。
幼さの残るその顔を真っ赤にしながら必死に食い下がっていた。
対するは、あまりにも巨大な剣をまるで細剣のように軽々と扱う女性だった。
涼しげな表情で相手をしている。
完全に子ども扱いだった。
少年の剣の二倍近い長さは有ろうかという、その巨大な刀身で見事にあしらっていた。
やがて、少年のほうが体力の限界に近づいてきたらしく足元が覚束無い。
「ほら!」
そんな少年の足元を巨大な剣の腹で引っ掛ける。
盛大に背中から地面に倒れこむ少年を見下ろしながら女性は笑みを浮かべていた。
「まだまだ、お前にこの剣と団長を譲る事は出来ないなキリア」
そう言って、そっと手を差し出した。
「姉上が強すぎるんです」
その手を取りながら口を尖らせて反論する。
「次こそは、姉上から一本取れるように頑張ります」
「それは頼もしい」
マリッサ・ディオンは、ニコリと笑顔を見せながら巨大な剣を背中に収めた。