第七章 揺るがない思い 動き出す戦場
「まだ、動けたとは思わなかったよ」
抑揚の無い口調。
そこには、仕留めた獲物が最期の悪あがきをしている様に、呆れにも似た苛立ちを浮かべる狩人のような印象を受ける。
宙を舞う銀色の光。
酷く軋む体を奮い立たせ、キリアは巨剣を振るったのだ。
真横から重量のある一撃を受けては、鋼で鍛えた剣といえども断ち割られるほかない。
一瞬の沈黙。
周囲に気を張るが、修道士以外の気配はない。
「教会の粛清使は役に立たないな」
小さな舌打ちが漏れる。
徐々に集まり始める修道士達。
それぞれが、相当に鍛えられた戦士であることが容易に想像つく。
「私の城に攻め入ったのだ。それ相応の覚悟はできているのだろうな」
静かな……とても静かな口調ではあった。
ひときわ、異常ともいえる強い存在感。
様相は修道女なのだが、隠しても隠し切れない。
数多の戦場を潜り抜けてきた戦士の気配。
真紅の瞳には、怒りに満ちた光が爛々と輝いている。
「この人を、折れた剣で相手するのはさすがに難しいかな」
この状況に陥って、ハイネに焦りが見られない。
経験の浅い戦士なら、その射られるような鋭い視線に、たちまち震えが止まらなくなる。
戦場で名を馳せた者でも、この強力な威圧感の下で冷静さを保てないだろう。
事実、数多の戦いを経験したエディーネですら圧迫感で身動きが取れなくなった。