第七章 揺るがない思い 勝者と敗者
圧倒的に不利だった。
柄を握り締める掌に力が入らない。
体中を襲っていた激しい痛みも、すでに麻痺している。
まるで、首から下を奪い取られたように体はあらゆる指示を受け付けようとしない。
両膝を地面に着き肩を落としたその姿は、決闘の果てに敗北を喫した騎士が今際の時を迎えたかの如く、厳かでありながら哀切に満ちている。
キリアは笑いを噛み殺さずにはいられなかった。
体の自由を失い、初めて冷静な自分を取り戻す事ができたのだ。
目だけを動かし、前に立つ男を見た。
「フッ……さすがだ」
対して、ハイネは満身創痍のキリアを見つめながら、唇の端だけで笑って言った。
「よく言うよ。ここまでボクを追い詰めたのは君がはじめてだ」
纏った衣服はいたる所が破け、傷だらけとなった自らの体を眺めながら満足そうに言う。
激しい戦いの末、常軌を逸するハイネの剣技がキリアの力を上回ったのだ。
「一つ間違えば、ボクが倒れていたのかもしれないからね」
喜びに体を震わしながら、先刻の戦いを思い出し恍惚に浸る。
「愉しい、本当に愉しかったよ」
いつもの軽薄な笑みではなく、本当にキリアを讃えた表情を浮かべる。
「でも……」
上段に構えた剣。
その剣筋の先にはキリアがいる。
「もう、君のような強者は現れないと思うとさびしいな」
一瞬の間を空けて剣は振り下ろされた。
戦士として戦場に立つ以上覚悟はしている。
剣を手に取ったときからそれは常に傍らに存在した。
自分を死へと誘う一撃を、確かと見届けようと目を見開いた。
「ハイネ、お前のその才能に、最早嫉妬すら浮かんでこないよ」