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第七章 揺るがない思い 勝者と敗者
「引くな!」
苦戦を強いられたエディーネに一喝するようにアルチナの言葉が飛ぶ。
「手出しは無用です」
「当然だ! 右はお前と言ったのだからな」
腕を組み、エディーネと刺客の戦いを傍観する。
口元をキュッと引き締め、決意に満ちた眼差しで相手を見た。
あえて、短剣の間合いに入り込むように素早く踏み込んだ。
不意をつかれた刺客は、体勢を崩し大きく後方によろける。
自ら懐に飛び込むという戦術に戸惑いと、技術を侮られた苛立ちが等しく込み上げた。
膨れ上がる殺気を感じながら、エディーネは降りしきる雨の様に隙間無い短剣の突きを辛うじて捌く。
響き渡る衝突音は、次第に激しさを増していく。
それは、ほんの少しだが、決定的な判断の間違いだった。
攻める事に集中したエディーネの剣。
それに対し防戦一方だった刺客が力ずくで攻めに転じようとしたのだ。
不十分な体勢。
先ほどまで緻密な動きをしていた短剣がほんの少し乱れる。
「私はまだ死ぬわけにはいかない。もう一度、王国に戻るんだ」
短剣が突き立てるよりも早く、一筋の閃が刺客の体を薙ぎ払った。






