80/92
第七章 揺るがない思い 憤怒の渦
あの人は、気高く、美しく、そして強かった事を覚えている。
常に、先陣を切り戦場を駆け巡り、携えた巨剣はあの人を神々しく見せた。
憧れと誇り。
キリアにとって、最も尊敬した人だった。
激しく乱れた呼吸。
肩から下が、鉛のように重い。
片膝が地面に落ち、視界が暗い。
全身が麻痺したかのように感覚がない。
柄を握り締める掌は、真紅に染まり、生温かい滴が零れる。
「さすがに、そんな超重量の剣を振るい続けたら……」
言葉を遮るように、剣を薙ぐ。
疲弊しきった体に鞭打ち、再び剣を構えた。
「あのとき、あの騎士団長は一人で複数の敵と戦っていたよ」
ハイネも、さすがに疲労の色は隠せない。
しかし、肩で息をしながらもまだ余裕がある。
「確かに、今の君と同じような印象だった」
降り注ぐ雨のように、間隙のない剣閃が襲い掛かる。
それを、剣の腹で凌ぐのが精一杯だ。
「悔やまれるよ。あの時の僕がもう少し年齢を重ねていたら、もっとちゃんと殺していたのに」
唇の端から血が滲み出るほどかみ締めながら、吐き捨てた。
「ハイネ。お前がマリッサを……姉上を殺したのだろうが!」