第七章 揺るがない思い 憤怒の渦
……スィン族。
かつて、その一族の存在は伝説でしかなかった。
史上、もっとも忌み嫌われた存在。
暗殺を生業とした一族。
一族に生まれた者は、幼少の頃より徹底した人を殺す技術だけを叩き込まれる。
それは、生来の逃れられぬ運命。
「あれが、僕の始めての仕事だった」
描類を思わせるような、異様に光り輝く瞳が見つめる先。
怒りに打ち震えるキリアを眺めながら、嬉々としてハイネは語りだした。
「本当はつまらない仕事だから気が進まなかったんだ」
力の限り振り抜かれた巨剣は、少し前までハイネが存在した無人の空間を切り裂く。
「なにしろ、刺客と戦う騎士団長を……」
言葉を遮るように巨剣が襲い掛かる。
「偶然に通りかかった少年を装って始末しろ……だからね」
「黙れ……」
「本当にくだらない」
「黙れ!!」
怒号と共に放たれた巨剣が、激しい音を立てながら大地を抉り取る。
「でも、今は感謝しているよ。何しろ、あれのおかげで君の本気と戦えるのだから」
まるで、吹き荒れる嵐のように襲い掛かる巨剣。
「そんな、力任せの戦いで君の体は持つのかい?」
「ぐっ……」
キリアの強靭な膂力を持ってしても、巨剣を振り続ける事は難しい。
だからこそ、本来は一撃で敵を仕留める必要がある。
巨剣は、振るえば振るうほどに体にダメージを残す諸刃の武器なのだ。
骨が軋み、幾つかの筋肉が千切れるような痛みが全身を襲う。