第七章 揺るがない思い 憤怒の渦
雷鳴が響き渡り、強さを増した雨粒の群れが地表を洗い流す川となり始めた頃だった。
二人を取り巻く空間だけが、まるで切り取られた別の場所に存在するかにように異様な緊張感に包まれていた。
「懐かしいな」
まるで挑発するような笑み。
「でも、短剣一つであまりにも呆気なく……」
言葉を遮るように、鈍い閃光が走る。
「ハイネ……貴様」
鬼神の如き、怒りに満ちた表情で巨剣を構えるキリア。
巨剣を握り締めた掌からは血が滲み出ている。
裂帛の気合とともに、水平に巨剣が走る。
しかし、雨音すらも吹き消すほどに、力の限り振り抜かれた巨剣が空を斬る。
剣先を見切り、ほんの少し後方に下がる事で巨剣の脅威の外へと脱したのだ。
だが……。
「紙一重で避けようなんて思わないほうがいいようだね」
左頬に一筋の赤い線が滲み出る。
「愉しい! 愉しいよキリア君」
間髪を入れずに、巨剣を頭上から振り下ろす。
しかし、振り下ろされた剣の先にハイネはいない。
歯が軋むほどに噛み締めながらキリアは後を追う。
まるで、新しい玩具を見つけた子どものように、ハイネは嬉々とした表情を浮かべた。
「あはは! どうしたんだい続けようよ。決闘なんて美しいものじゃない」
舌なめずりをし、爛々と瞳を輝かせながらハイネの剣が複数の軌跡を描く。
「ここからは、ただ愉しいだけの殺し合いだ」