第六章 決意の時 迫り来る脅威
辺りに広がる奇妙な違和感に、はじめに気付いたのはキリアだった。
得体の知れない何かが、息を潜めながら動き回っている。
それも、一つではない。
複数の何かがいる。
素早く部屋の中に立て掛けられた巨剣を手に取り、静かに部屋を後にする。
人影などどこにもない、閑散とした夜の廊下。
雨音だけが、さびしく鳴り響く。
普通ならば気付くはずもない、微かに感じる違和感。
それを感じ取る事ができたのは、長い年月の中、ひたすら感覚を研ぎ澄まし刺客からの攻撃に備えていたキリアだからだろう。
「相当、訓練されているな……」
足音を殺し、辺りに気を張りながら静かに廊下を進もうとした時だった。
「久しぶりだね……キリア君」
言葉が耳に伝わりきる刹那。
まるで、剣を背中に突きつけられているような鋭い殺気を感じ、反射的に身を反らした。
一瞬ののち、その場を一筋の閃光が駆け抜ける。
「ハイネ……」
崩れた体勢を立て直し見据える先。
無造作に剣を構えながら、無防備にたたずむ少年が一人。
鮮血の如く赤く染まった髪に、戦場に出るにはあまりにも無思慮と言わざるをえないほどの軽装な姿。
相変わらず軽薄な笑みを浮かべている。