第六章 決意の時 赤い悪魔
確かに、ディオンの人間との戦闘に不安を感じなかったわけではない。
しかし、ギルドでも指折りの戦士であるハイネが負けるとは思っていない。
ホーキン自身も、ハイネ・ガルシアと契約した当初は王女を秘密裏に消し去れればよいと考えていた。
その後、捜索隊を派遣して不慮の事故死と報告。
今、レナード・ロゼ・ホーキンの言葉を疑うものなどいない。
いつでも片付けられる事案だった。
そこに生まれたわずかの油断。
ホーキンの思惑に微妙なズレが起こり始める。
七貴族議会の失態。
徐々に王宮から遠ざかり始める国民。
その上、王女に近しい一部の領主から水面下で興り始めた待望論。
そもそも、国王暗殺未遂に対する疑い。
そのため、どうしても王女の死は不慮な事故を装わなければならない。
しかし、王女の剣の腕前は誰もが知っている。
それは、盗賊如きに後れを取るようなものではない。
ハイネでは、王女に斬撃の痕が残ってしまう。
それは、暗殺という決定的な証拠になりかねない。
それだけはどうしても避けたかった。
頭を悩ます点は他にもある。
予定よりも早まってしまったセフィーリア王の選定。
教会の思惑。
特別枢機卿からの圧力。
すべてがホーキン卿の予想を超えて加速していく。
もはや、一刻の猶予もない。
「……まぁいい。でも、そろそろボクに仕事をさせてもらわないと」
邪悪なものを含んだ、おぞましく歪む笑みに凍りつく。
やがて……。
「……分かりました。ただし、一つ条件があります」