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第六章 決意の時 赤い悪魔
「いつまで、ボクは待てばいいんだい?」
軽薄な笑みを浮かべながら、突き刺すような口調だった。
ひとつ間違えれば、間髪を入れずに腰に下げた剣がホーキン卿の首を跳ね上げるだろう。
「契約を交わした以上、貴方の指示は聞く。でもね、ここまでお預けされたら、さすがにボクも黙ってはいられないよ」
ギロリとその瞳がホーキン卿を捕らえて離さない。
目の前に佇むのは、細身で頼りない風貌の若い男のはずなのだが、ホーキン卿には凶暴な肉食獣が舌なめずりをしながら襲いかかろうとしているように錯覚する。
それほどに、この男は強力な存在感を発していた。
その気になれば、花を摘むよりも簡単に自分の命を狩られるだろう。
「しかし、王女と行動をともにしている男。レガリオンのディオン家の者だと聞きます」
そう、ディオンの名はその政治力も然る事ながら、戦士としての力量も他国に響き渡っていた。
巨大な剣を持って、戦場を駆け巡るその姿は戦場を掛ける戦神を彷彿とさせる。
「ふん! 舐められたもんだね。では、なぜ貴方の兵を彼らに仕向けたんだい?」
「そ……それは」
言葉に詰まる。