序章 それぞれの思い
「我々、元老院はユーリ陛下に退位して頂き、次期国王にエディーネ王女を推薦する旨の意見案を次回の元老議会で提出いたします」
ゆるぎない決意のもとで発せられた言葉だった。
それと同時に、エディーネはその言葉の衝撃に一瞬だが思考が止まった。
現在、正統な国王が存命しているにも関わらず、継承順位では劣るエディーネに玉座に就くように促しているのだ。
「な……何を馬鹿なことを! 貴殿は自分の言葉の意味を理解して言っているのか」
脈拍が急激に上昇するのが自分で認識できた。
掌に汗が滲み、視界が暗くなっていく。
思わず強い口調になるのも仕方が無い。
「エディーネさま! 今現在、この国には国王陛下が不在といっても差し障りは無い状況にまで追い込まれております。このままでは、セフィーリアは外交においても内政においても取り返しのつかない状態に陥ってしまいます」
あくまで、一歩も引かない態度のバーゼン卿は語気を荒げながら続ける。
その事は、エディーネ自身も憂慮していることだ。
このままで行けば、国は二つに分かれてしまう。
「いかに、首席公爵家が取り仕切る七貴族議会といえども、これ以上の国王陛下になりかわり政務をこなす様では、国内の貴族と国民に示しがつきません。我々は王家に忠誠を誓う忠実なる家臣なのです」
これ以上は言葉が続かない。
息を切らせながら、真っ直ぐな瞳でエディーネを見つめる。
二人の間に重い空気が流れる。
「……即断するには難しく思います。後日、改めてお心を確かめに参ります」
その後、一つの条件を課すことでエディーネ王女はこの申し出を了承することとなった。