第六章 決意の時 赤い悪魔
もうしばらくすると、空を覆う黒い雲の群れから無数の雨粒が惜しげもなく降りしきるだろう。
夜が深まり、辺りを覆う静けさが薄気味悪く感じる頃。
物音を立てずに森の中を走る人影。
それは、まるでそこに存在しないかのように気配を消し去り、しかし獣を思わせるほど大胆で軽やかに悪路を走る。
頭を覆った真っ黒のフードから僅かに見える赤い髪。
あまりにも軽装なのその人物は悪意に満ちた笑みを浮かべながら先を急いでいた。
それは遡ること数日前。
「こんなところで何をしているのですか?」
王宮から少し離れた人気の無い街道の途中。
豪華な馬車がゆっくりとその歩みを止めた。
馬車の窓から、視線に入るのは真っ赤な髪が印象的な若い男だった。
「聞きたいことがあってね」
飄々とした口調とは裏腹に、瞳にはギラギラとした光が宿っている。
「……なんでしょうか?」
思わず息を呑む。
レナード・ロゼ・ホーキンは、若い頃に幾度も戦場を経験してきた。
今でこそ、文官としてその職務を全うしているが、若い頃は最前線に立ち、降りかかる剣を捌き数多くの武功を挙げてきた。
それは、誰もが羨む首席公爵という出自だけで、組織の長となることを良しとしない考えの持ち主だったからである。
誰よりも、剣を振るい多くの戦場を駆け抜けてきた、戦場での勘はいまだに鈍ってはいなかった。
そう、男が放つ並々ならぬ威圧を肌に感じている。