第五章 揺らぐ王国 混乱の序章
信じていた世界の崩壊。
それがこの僅かな期間のうちに幾度も押し寄せてきたのだ。
普通の人ならば、そのあまりの悲しみに心を壊してしまうだろう。
そう思うと、エディーネは耐え抜いたほうだ。
それでも限度がある。
事実、エディーネの心は酷く疲弊していた。
最愛の弟にして、絶対の忠誠を誓う国王に襲い掛かる異変。
それに伴い、心を殺して王位を受け入れたはずなのに、気がつけば反逆者として信じていた王国から追われる身となった悲しみ。
その上に……その上に、今まで存在すら知りもしなかった妹の存在。
心に溜まった思いが爆発しそうだった。
なぜ、ここまで追い込まれなければならないのか。
今まで抑えてきた、怒りにも似た悲しみが激流となってエディーネに襲いかかる。
もう、何を信じていいのか分からない。
全ての現実から目を逸らす事が出来ればどれほど楽になれるか。
修道院から用意された一室。
備え付けのベッドの中、エディーネは心を閉ざしていた。
幾度か、扉を叩く音が聞こえた。
おそらく、エディーネの事を心配したキリアが訪ねてきてくれたのだろう。
しかし、今は誰とも会う気になれない。
会う勇気がない。
会ってしまえば、全ての感情が堰を切ってように溢れ出してしまうかもしれない。
激しい葛藤の中、静かに時だけが流れていく。