6/92
序章 それぞれの思い
依然として国王は深い眠りに陥っていた、ある日のこと。
それは前触れも無く、突然に動き始めた。
「エディーネさま。少しよろしいでしょうか」
声の主は、ウィーゼル侯爵家当主バーゼン卿だった。
五十を過ぎた老齢で、いつもは穏やかな表情のバーゼン卿が、緊張した表情で声を潜めながら呼び止めたことに、ただならぬ予感を覚える。
「どうなされたバーゼン卿」
つとめて平然とした表情で答える。
「このような話を、私どもの口から申さなければならないこと誠に残念に思います」
無言で、話の続きを促すエディーネ。
「この場で、いくら言葉を取り繕っても仕方ありません。単刀直入に申し上げます」
咳払いを一つ挟み、重々しい口調で語りだす。