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第四章 庶子の王女 もう一人の王女
その事実に、王国の重臣たちは激しく動揺する。
「その話を信じる根拠はあるのですか?」
「我々は、一度もアルゼン陛下からそのような話を聞いたことはありません」
戸惑いから、思わず声を荒げて問いただす元老議員。
元老議会は、まるで戦場のように怒号が飛び交った。
やがて、一人の男がゆっくりと口を開いた。
「それは当然です。この事実は徹底して内密にされて参りました。王国内でもこの事実を知る者はほとんどおりません。私としても、この事に関しては生涯口にしないはずでした」
男は、沈痛な面持ちで列席者を見渡した。
「しかし、今……このセフィーリア王国は、王家の血統が途絶えようとしています。国王陛下はご不幸にもあのような事件に巻き込まれ、王女は現在逃亡中。このままでは、王座の正統なる継承者が絶えてしまいかねません。我々に残された道などありません。隣国に蹂躙されるならば、母親の血筋が不確かであろうともアルゼン陛下の直系というこの真実に縋るよりありません」
その口調は断固として、異論を挟む余地の無いものだった。