第四章 庶子の王女 修道院長
「リリアからの手紙で大体の話は分かっている」
凄むでもないのに空気がピリピリと震えている。
その口から放たれる言葉、見据えるような視線、そのどれもが圧倒的な迫力を持つ。
場所は修道院の中の客室。
相対しているのはまだ若い修道院長……のはず。
しかし、気分は戦場の第一線に身を投じ、目の前の修道女はさながら軍隊の司令官だ。
「お前が、王女なのだな」
「はい」
思わず、背筋がピンと伸びる。
「早速、本題に入ろう。お前はどうしほしい」
今は逃亡の身とはいえ、仮にも一国のそれも中央に名立たる大国の王女に対してここまで横柄な態度をとる修道女はそうはいない。
「その……」
あまりにも、簡潔明瞭な質問に呆気にとられていると。
「匿って欲しいのか? 人手が欲しいのか? 逃亡を手助けして欲しいのか?」
次第に獣のような唸り声を上げだす。
そんな状況にさらに驚愕は増すばかり。
「しばらくの間、匿ってはもらえないか。その間に情報を得たい。彼女を狙う者の正体、それとセフィーリア王国の事も調べたい。構わないか」
キリアは淡々と交渉を始めている。
「……分かった。その代わり、ここではここの規範に従ってもらう。働かない者には一欠けらのパンも無い」
そう言うと、二人の修道服を手渡してアルチナは部屋を後にした。
「……」
あまりの事態に絶句していると。
「あの人は、おそらく元は傭兵なのだろう。同じにおいがした」
そんなエディーネを苦笑しながらキリアは答えた。