第四章 庶子の王女 サン・フォーレスト修道院
「お話は聞いております」
重々しい木製の扉を開いたのは若い修道女だった。
ゆっくりとした足取りで、修道院内の回廊を進む三人。
ふっと、庭には目をやると幾人かの修道士たちが鍬を手に地面を耕している。
また、別のところでは大工道具片手に町中へと修道士たちが消えていく。
それは、まるでこれから作業場に向かう労働者のように見える。
エディーネは、不思議そうに訊ねた。
「教会の司祭は、教えを諭す事が仕事ではないのですか?」
セフィーリア王国内に存在した教会の司祭たちは、そのほとんどが礼拝堂の祭壇で、訪れた人々に聖典の一説を用いて教えを述べていた。
彼らにとっての労働とは、人々の心の迷いを教えによって救う事。
決して、額に汗しする事ではなかった。
「確かに教会の主たる目的は、その尊き教えを広く世界に伝えるところにあります。しかし、修道院は少し違います。我々は、より深く教えを追及し、皆が自身の内に厳しい戒律を持って共同で生活しています。天啓主義教会の教えの中に『労働から生まれる祈り』というものがあります。我々、サン・フォーレスト修道院はこの教えを一つの軸と考えて、日々の労働によって祈りを捧げているのです」
「君の国にも、修道院は在ったんじゃなかったのか? 確か、ロシェル修道院だったか」
そういえば、王国の東に広がる地方都市アシムに修道院があったように思う。
「在りました。私も、時間をみて一度は訪問しようと思っていました」
その時、静かな回廊に響く靴音が突然止まった。
「この部屋でお待ちください。院長をお呼びいたします」
静かに扉を開くと、中は質素なソファーが置かれた普遍的な客間だった。