第四章 庶子の王女 サン・フォーレスト修道院
「ここが、王都ルゼールですか」
エディーネは、感嘆のため息をついた。
レンガ造りで統一された町並みは、物静かな印象を受ける。
風に乗って聞こえてくるのは弦楽器の穏やかな演奏と祈りの言葉。
「今日は、教会の礼拝の日なのだろう。普段は、にぎやかで活気に満ちた町なんだ」
レンガを切り出して造られた街道を歩く二人。
見渡せば、幾つもの教会の建物が眼に入る。
「それにしても、以前にルゼールを訪れたときは、ここまで教会の影響を受けてはいなかったんだけどな」
キリアは、不思議そうな表情だった。
かつての王都ルゼールは、これほど教会色の強い町ではなく自由気ままな商人の町だった。
そうキリアの記憶には残っている。
しばらくレンガ道を歩いていくと、やがて周囲から建物が無くなりはじめ、平原が広がる。
その先に、低い塀で囲まれた大きな石造りの建物が見えてきた。
それはとても単純な造りで、まるで要塞のように飾り気の無い質素で無骨なものだった。
敷地内には、本館の倍はあろうかという二つの高い塔が聳え立っている。
「ここが……」
大きな木製の門の前で、エディーネはその建物を見上げる。
壁面に施された彫刻は、ローレンス神殿の彫刻に勝るとも劣らずの見事なものだった。
「ここが、リリアさんが言っていた修道院」
天啓主義教会サン・フォーレスト修道院。
およそ、百人の修道士や修道女が天啓主義の戒律に従い共同生活しているフォンブルグ公国内では最大級の修道院だ。