第三章 黒い使徒 幼き法王
「法王聖下もお喜びになられています。聖下に代わり感謝します」
優しい微笑みが印象的だった。
「……甘い」
その口調は、周囲の空気を一変させるのに十分すぎるほどの威厳と威圧があった。
「兄上?」
少し苦い表情で、ヴィクトリアは声の主に視線を送る。
そこには、眉間にシワを寄せ険しい表情の男がいる。
ベルゼー・ケント・ボルフィードは、明らかに苛立っていた。
ヴィクトリアと同じく、特別枢機卿の地位に就き、法王庁の内政と軍事を取り仕切る内務長官を務める男は苦々しい表情で口を開いた。
「レナード枢機卿、いつまで聖下を御待たせる気なのだ?」
まるで、断罪するかのような強い口調。
「……」
ただ、頭を下げて言葉を受けるしかない。
「貴公に枢機卿議会の長を任せている意味。理解しているのだろうな」
「兄上、事はそう簡単に済むものではありません」
ヴィクトリアは、冷静な口調で会話に入る。
「ヴィクトリア、そんな事だからいつまで経っても先へは進まんのだ。我ら教会の考えは、全てにおいて優先されなければならない。しかし、未だに教会の意思を受け入れない国が存在する。聖下は、各国の王たちよりも上位に立つべき方なのだ」
言葉を止めるとその険しい視線は、まだ幼い法王ロレンへと向かった。
「聖下! ご命令頂ければ、我が法王庁騎士団を速やかに、聖下の意に反する国々に派遣いたします」
「法王庁騎士団は、異端の疑いのある場合と法王庁への侵略の危険性があるときのみ派遣が許されるものです。異端の有無は、外務長官たる私が決定する事」
激しくにらみ合う二人。