第三章 黒い使徒 幼き法王
「私共の現状については、今お話した通りです」
畏まりながら、レナード・ロゼ・ホーキンは言葉を閉じた。
「うんっ。わっ……わかったよ」
頼りないその声の主は、オドオドした口調で答えた。
真っ白な聖職者服に紺の肩掛けを纏い、頭上には金で縁取られた白いミトラが荘厳に君臨していた。
そう、謁見の間にて神の代理者の椅子に腰を下ろし、二人の特別枢機卿を左右に従える尊き存在。
大聖堂サン・ロゼッタの大司教にして天啓主義教会第264代法王ロレン・ソアラだった。
数千年の永きに渡り、人々の信仰を集める全ての教会の長を務めるのは、まだ十二歳の少年だった。
「あの……その……」
どう答えて言いか悩むロレンの言葉を遮るように左に座る人物が口を開いた。
「現状は分かりましたレナード枢機卿」
声の主は、ヴィクトリア・ルチル・ゴルトシュミットだった。
鮮やかな金色の髪は背中に流れ、青みを帯びた緑の瞳は静かにレナードを見つめている。
艶麗な容姿は、その神秘性に拍車をかけている。
若くして、法王に次ぐ高位聖職者である特別枢機卿に任じられ、法王庁の外交を取り仕切る外務長官を務める。
また、大陸でも有数の穀物庫であるゴルトシュミット大平原の若き領主としても有名だった。