第三章 黒い使徒 枢機卿議会
「私からでよろしいでしょうか?」
声の主は若い女性だった。
男同様に、紅の聖職者服を纏い、どこか神秘的な印象を受ける整った容姿。
白雪のように澄んだ肌に、大きな瞳。漆黒の髪は、首下で綺麗に切りそろえている。
「それでは、ジュリア・シャノン枢機卿。お願いします」
一度、頷くとゆっくりと言葉が紡がれる。
「私が管轄するフォンブルグ公国領内では、複数存在が確認されていた異端教のほとんどを摘発し終えました。近々、異端審問を執り行います」
静かにだが、ざわめく室内。
「さすがですな。あのフォンブルグの異端者たちを着任わずか五年で制圧して見せるとは」
嫉妬にも似た色を含む言葉を発したのは老齢の男性だった。
薄くなり始めた、頭髪と口髭は白く変わり、でっぷりとした体格を隠すためか大きな紅の聖職者服を愛用している。
「いえ、何をおっしゃいますサイモン枢機卿。それよりも、ご自身が統括されているレガリオンは、聞きしに勝る異端の巣窟だったようですね。十年以上も異教徒狩りを続けておられるのに、今だにレガリオンを治められておりません」
痛烈な皮肉をおり混ぜながら嘲笑する。
あんな、小さな国一つにいつまで時間を費やしているのだと。
獰猛な獣のような唸り声を上げるサイモン枢機卿。
「それぐらいにしておきなさい。それに、サイモン枢機卿が成された政治革命。あれは見事なものでした。我々に非協力的だったかつての宰相を排斥し、より敬虔な信徒が国王の補佐と成りえたのですから」
「……失礼致しました」
ジュリアは、納得できない表情ではあったが引き下がる。
「もちろん、ジュリア枢機卿の功績はすばらしい。これからも、神の御名の下にその力を存分に振るってください」
男からの礼賛に、頬を赤く染めながら頷く。