第三章 黒い使徒 枢機卿議会
世界中に、約一億人の信者がいるとされる天啓主義教会。
『唯一絶対なる教えの下、全ての人々は神の御名を唱えよ。されば、尊き理想郷に招かれるだろう』
聖典は、この一節から始まる。
いつの時代に発祥したのかはわからない。
しかし、人々の記憶……いや、もっと深い意識の中にこの一節は刷り込まれていた。
ここは、全世界に広がる天啓主義教会を統べる法王庁。
完全なる左右対称で作られた大聖堂は世界で最も大きく洗練された、全てにおいて他の教会の追随を許さぬ壮麗さを持ち合わせていた。
大聖堂サン・ロゼッタ。
聖典の記録者の名を冠した聖堂の奥。
誰もが立ち入る事を憚る聖域の部屋。
その一室で、静かな会議が開かれようとしていた。
「皆様、御揃いのようですね」
紅の聖職者服を身に纏う男が、大きな扉を開き広い会議室へと歩を進める。
室内には、大きなコの字型のテーブルが配置され、一番奥の椅子を除いて全ての席に座る人影がある。
ただ、静かにその男が席に着くのを待っている。
室内に響く靴音。
やがて、男は一番奥に用意された高価な皮製の椅子にゆっくりと腰を下ろした。
「さて、それでは始めると致しましょうか。分かっているとは思いますが、この場での発言に嘘偽りの無いようにお願いします」
皆、一様に無言で頷く。
「まず、各々方の進捗状況からお聞きしたいのですが……」
出席者をゆっくりと見回す。