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第三章 黒い使徒 変わらない大きな手
一人で逃げていた時から比べて、どれほど心強く思えたか。
今、目の前に立つ、大きな背中に幾度助けられたことか。
「言ったはずだ。俺は貴女の剣になると。絶対に護ってみせる」
大剣が空を切る。
突然現れた伏兵に、三人の判断は早かった。
迷うことなく、底冷えするような暗い海へと飛び込んだのだ。
「逃げられたか」
引き際をわきまえている。
相当の手練だろう。
振り返ると、力無く床に座り込むエディーネが視界に入る。
「こ……腰が抜けてしまいました」
弱々しい笑みを浮かべる。
「俺は、たとえ誰が相手でも、誰を敵に回してでも君を護るとあの教会の前で誓った。だから、君も諦めるな。生き抜くんだ。どれだけ醜く足掻いてでも」
差し出されたその手は、あの教会の前で握り締めた時と変わりない大きなものだった。
「……はい」
頬を伝う一筋の涙。
一瞬でも、生きることを諦めた自分の心を恥じながら、もう一度その手を握りしめた。