第三章 黒い使徒 変わらない大きな手
慌てて起き上がり、視線を戻すとそこには三人の人影が立っていた。
三人とも、黒い衣を身に纏い、眼の部分に穴の開いた真っ白の仮面を装着している。
そして、手には小剣が握られていた。
音も無く、エディーネを取り囲む三人の動きには無駄がない。
それとは対照的に、奇妙な違和感を覚える。
呼吸を整え、剣を構えながらその違和感を探る。
そして、その違和感にようやく気付くことができた。
そう、この三人から何も感じないのだ。
今まで、数え切れないほどの刺客と相対してきた。
様々な手段を用いる彼らだったが、共通していた事が一つだけある。
それは、明確で例えようも無いほどに強烈な殺意だ。
必ず殺すという、強固な決意が体中から満ちていた。
しかし、三人からはそういった類のものは感じない。
まるで、事務的に剣を振るうような。
むろん、剣を手に持ち間合いをはかる以上、友好的な相手であろうはずが無い。
月明かりが消え去った船上。
音も無く襲い掛かる三つの白刃。
それは、常軌を逸するほどの正確なタイミングで繰り出される。
……隙がない
一人に気を取られていると、確実に残りの刃に命を取られる。
眼で見て、攻撃をかわしていては間に合わない。
ほとんど、反射神経のみで相手の攻撃を受けていた。
「くっ……」
徐々に追い込まれていく。