第三章 黒い使徒 変わらない大きな手
旅の道程が海上に変わって二日目。
順調に航行できれば、後二日もすれば王都ルーゼルに着くだろう。
この日の月は、おぼろげな光に包まれていた。
相変わらずの穏やかな風の中で、コウル・シェラ・フォルーガはその名に相応しく黙々と白波を掻き分けて進んでいる。
静寂が支配する海の上、船を中心に海も空も暗闇に沈んでいる。
まるで、全てを飲み込もうとする異世界の扉を開いてしまったような暗黒が広がる。
思わず、背筋に冷たいものが走る。
見つめていると、そのまま心だけを奪い去られそうになる。
「あんまり、夜の海を見つめているとフォルーガンに連れて行かれるらしいぞ」
船員の言葉が脳裏に浮かぶ。
身震いをしながら、船室へ戻ろうとした時だった。
微かに波打つ海面。
それは、目を凝らして見なければ分からないほどに。
徐々に、月が雲に包まれ辺りが常闇に飲まれて行く中、エディーネはその正体をつかめないでいた。
「なに?」
身を乗り出して、それを確認しようとした時だった。
風を切り裂くような、独特の音が聞こえた。
銀色に輝く何かが、エディーネに向かってくる。
それをかわせたのは、一重に逃亡生活で研ぎ澄まされた反射神経が成せるものだろう。
バランスを崩し、甲板に倒れこむ。