序章 眠りの王
威厳というよりは、威圧に近い……巨大で重厚な木製の扉。
その前には勇壮な二人の衛兵が、まるで蝋人形のように一点を見つめたまま詰め所の前に立っている。
「少々お待ち下さいませ。ただいま侍女にお知らせいたします」
かしこまって、平伏した衛兵は踵を返すと扉を開いた。
扉の中には、小さな個室が設けてあり、その奥にもう一つ扉が設けてある。
この個室には、国王お傍付き女官のエルミダが控えている。
エルミダは、王宮でも一、二を競う古参で王宮の信頼も厚い女性だ。
もう、五十をとうに過ぎてはいるが、若い女官たちよりも動きが機敏で国王お傍付き女官に任じられるまでは女官長として王宮勤めの女官たちを取り仕切っていたつわものだった。
「どうぞこちらへエディーネさま」
小柄ながら横に大きく丈夫な体つきに、少し白髪の混じった髪は後頭部で結い上げている。
平伏している二人の衛兵の横を通り過ぎ、エルミダの後に続き国王の寝室へと入っていく。
そこは、普段から贅沢品に目の慣れた貴族ですら感嘆のため息をつく、一般市民に至っては思考が止まりかねないほどに豪勢なものだった。
室内に飾られた絵画や焼き物などは、一つで一般市民が一年は不自由なく生活できる程の高価な品ばかり。
北方の国で作られた繊細で高価な絨毯が敷かれ、四本の大理石製の支柱は、あらゆる神々が祝福する様をあらわした彫刻がなされた豪勢な天蓋を支えている。
寝台の敷布は、国内でも最高級の絹が使われ、一国の王の寝室としてはこれ以上のものは無いだろう。
そこに、一人の青年が静かに目を閉じて横たわっている。
顔色は優れず、少し頬がこけている。
元々は美しい金の髪も今は輝きを失っている。
傍らに寄り添い、目元に掛かる髪を優しく払いながらその閉じられた目元を見つめる。
そこには、まるで蝋で作られた人形のように真っ白な肌と美しい顔立ちの国王が眠りについていた。