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第三章 黒い使徒 束の間の安らぎの中で
「西のルーゼル港までだって! そんな遠くまで行きたいのなら、大型の商船にあたってくれ」
交渉を持ちかける船長は、皆一応にこう答える。
だからといって、陸路で王都ルーゼルを目指すと入り組んだ道と長い砂漠越えが何度も続き、最低でも二週間はかかるだろう。
途方に暮れるエディーネ。
徐々に空は曇りだし、あと半刻も過ぎればまた雨が降り出すだろう。
空を仰いで、思わずため息が漏れた。
元々カース埠頭は、王都ルーゼルへと続く交易海路の拠点のひとつに過ぎず、船を係留させて貨物を積み込むため乗員は貨物の受け渡し以外にカース埠頭に降り立つことはない。
そのため、必要最低限の施設しか配置されず、宿泊できる場所などあろうはずもない。
見回す限り、木製の倉庫が何棟も立ち並ぶ閑散とした光景だった。
太陽が傾き、徐々に辺りが暗くなり始めた頃。
少し離れた場所で、同じく船を探していたキリアが戻ってきた。
「見つかりましたか?」
不安な気持ちで問いかけるエディーネに、微笑みながら答えた。
「あぁ。向こうに停泊している大型の輸送船がルーゼル港に向かう途中だから乗せてくれるそうだ」