第二章 二つの真実 もう一つの真実
当時の宰相は、一族ともども捕まり処刑されたと聞く。
確か、そのときの宰相の名前はソシル……ディオン。
「そう、あの時の汚職の汚名を着せられて処刑されたのは俺の父だ。父は、国民のためにあらゆる改革を断行した。税金の減額や、貿易行路の整備。数え上げればきりがない。しかし、そんな父の改革を快く思わない一部の反対派が領収書を偽造し、あろう事か一国の宰相を排斥したんだ」
キリアの瞳には赤々と燃え上がるような怒りの炎が灯る。
「すまない」
燃え上がる感情を抑えるように、少し呼吸を落ち着けて話を続ける。
「父に横領など出来るはずもない。私財を投げ打ってでも、国民のために改革を進めていく人だったから」
思い起こせば、そのために幼い頃は食事も切り詰めた倹約の生活を送っていた。
贅沢など経験したこともなく、服は全て五つ上の兄のお下がりばかり着ていた。
「キリア殿は、今でもレガリオンに対して復讐したいと願っているのですか?」
不安そうにエディーネが訊ねる。
キリアは静かに首を振った。
「もう、十年以上も前の話だ。今は、国王も変わり王国の財政も傾き始めている。王国が手を出さない限り、俺は傭兵として生きていく」
そこには、過去との決別を誓った精悍な男の顔があった。
「それに、俺には貴女との契約がある……もう、俺と同じ思いは誰にもさせない」
「……」
思わず、その表情に見とれる。顔が熱く鼓動が高鳴る。
胸が締め付けられる思い。
キリアの顔が直視できない自分に気付く。
そんなエディーネをよそに、キリアは突然に席を立った。
「古い話をしたせいか、気分が高鳴って眠れそうもない。少し、夜風に当たってくる」
優しい笑顔を残して、二人に背を向けて屋外へと姿を消した。