第二章 二つの真実 もう一つの真実
「もう、十年以上も前の話さ。それに、俺には兄がいたから……」
どの国でも、家柄を継ぐのは長兄と決まっている。
当然、その地位も長子である兄が継ぐこととなる。
しかし、エディーネには一つ気になる言葉があった。
「……いたから?」
その言葉は、人を過去形で表してしまう。
「十年以上も前に死んでいるんだ」
そこには、悲しみも嘆きも感じられない。
「キリア君、違うでしょ。死んだんじゃない、殺されたのよ」
キリアの表情が、僅かに強張る。
「いい、真実は受け止めなければならないの。エディーネさん、キリア君はね十年も前から今の貴女と同じような生活をしているのよ。たった一人でレガリオンから命を狙われながら生きてきたのよ。ギルドの戦士になることも対抗手段の一つとして」
十年以上も前ということは、キリアは十代も終わりに差し掛かった頃。
たしかに、一人の少年が一国を敵に回して生き残るには確固たる技術が必要となる。
手っ取り早く、剣術を学ぶには傭兵になることが一番だろう。
「元々、ディオン家は宰相という地位とは別に武官としても名を馳せていたの。あの巨大な剣もディオン家に伝わるものよ」
一度でも、あの剣を手に取り戦場を駆ける姿を見たものは、味方ならばその頼もしさに心踊り、敵ならばその禍々しさに恐怖するだろう。
「でも、なぜキリア殿はレガリオン王国から命を狙われるのです?」
苦い表情で口籠るキリアに変わり、リリアが話を始める。
「レガリオンの政治革命って……知っている?」
昔、王宮で教わったことがある。
レガリオン王国の宰相が汚職に走り、利益を独占した事に奮起した一部の重臣が厳しく糾弾した事件だ。