第二章 二つの真実 もう一つの真実
苦悩に歪む表情のキリアが、エディーネには見えた。
大広間は、昼間の活気は消え去りただ静けさが支配している。
広間の奥に、机を挟んでキリアとリリアが何か話をしているようだ。
「やはり、レガリオン王国は……」
壁に阻まれて、向こう側からはこちらの姿が確認できないようで二人は話を続けた。
「それはそうよ。何しろ今の宰相は、実権こそ持っているけど所詮は補佐に留まっていた一族の出身。政治の駆け引きがまるで駄目だわ。国王も若いせいか、宰相に頼りっきりみたい」
幾度も零れ落ちるため息は、呆れた感情を含んでいる。
「だからこそ、今の宰相には貴方の存在が脅威以外の何でもないのよ」
そこには、哀れみをも感じる口調だった。
「それで、ここ最近ラティーカ家から送られてくる刺客の数が増えているのか」
小声で話をする二人。もう少し近くでその話を聞こうとしたときだった。
「……エディーネさん、盗み聞きはいけないわよ」
視線を向けることもなく、リリアは静かな口調で諭す。
キリアは、頭を抱えながらエディーネに視線を向けた。
居た堪れなくなり、その場を後にしようとしたがリリアは予想外の言葉を発した。
「ちょうどいいじゃない、エディーネさん同様にキリア君も一国から命を狙われているのよ。話が聞きたいんでしょ。ここの席が空いているわ」
気まずそうなエディーネを、キリアの横に座らせてリリアは話を続けた。
「キリア君はね、貴女ほどではないけど、それなりの家柄の生まれなの」
順を追って説明を始めるリリア。
「南方に存在するレガリオン王国……知っている?」
「文化芸術においては並ぶ国無し、と言われるあの?」
金細工や宝石加工など、大陸に流通する芸術品はレガリオンを通って世界に流れる。
と言われるほどに高い水準の細工師を抱える文化レベルの非常に高い国だ。
事実、セフィーリアで売られる金銀細工のほとんどがレガリオンのものだろう。
「そう。キリア君は……いえ、ディオン家は代々その国の宰相を務めてきた家系なの」
目を見開いて驚くエディーネ。
その表情を苦笑混じりに見つめる。