第二章 二つの真実 もう一つの真実
その夜は、一年ぶりに寝台の上で過ごす事となった。
王宮の寝台に比べれば、質は悪いがそれでも固いレンガ造りの床や草むらに雑魚寝するよりは遥かにいい。
今まで、廃墟に身を潜めて、草木が風に揺れる音を鳴らす度に剣を握り身構えていた。
常に緊張感に満ちた夜に安息はなかった。
キリアと出会って、少しは眠れる夜を迎えたこともあった。
しかし、やはりどこから現れるか分からない相手におびえていたのも事実。
それは今も変わりはしないが、体を温める敷布と久しぶりの満腹感が無条件の安心感をエディーネに与えている。
ゆっくりと瞼が重くなり始めた。
もう、しばらくもすれば眠りに落ちるだろう。
そんな時だった。
隣の部屋の扉が開く音が不意に耳に入る。
……キリア殿の部屋?
その足音は、ゆっくりと階段に向かい、木の軋む音を残して一階へと消え去った。
静かな時がゆっくりと流れる。
思えば、キリアと出会ってしばらく経つが、一国から命を狙われているエディーネを無償で、命を賭けてくれる風変わりな彼の事をあまり知らない。
もちろん、キリアが傭兵組合ギルドの中でも、ずば抜けた戦士だということは今までの戦いで十分に理解している。
前に、一度だけキリアに過去を聞こうとしたことがあった。
「キリア殿も、私と一緒で自国から追われている」
寝台から飛び起きたエディーネは、寝着の上にローブを羽織、足音の後を追った。