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序章 眠りの王
いつものように、王宮では女官たちが朝早くからきびきびと働き、王国の重臣たちが多くの資料を手に持ちながら会議室へと姿を消す。
いつもと変わらない日常がそこには流れていた。
まるで、燃えるような勇ましい紅色をした絨毯の上を、ゆっくりと優雅な足取りで歩く人影。
年の頃は二十代半ば。
整った美しい顔立ちは、気品高く凛とした印象を受ける。
背中に掛かる、よく手入れがされた美しい金の髪は首もとで一つに結われている。
高価な白地の絹に、金銀の糸で縫い取りをした上着には金やプラチナで作られた装飾品が惜しげもなく飾られている。
濃紺のズボンは、相当に名の知れた職人の手で作られた一級品のものであることが一目で分かる見事な造りだ。
全てが、洗練された贅沢の極み。
「エディーネさま、おはようございます」
女官たちはその人の姿を認めると、頬を赤く染めながらその手を止めて恭しく頭を下げる。
「えぇ、おはよう」
涼やかな口調。
鈴の音のような凛とした声だった。
爽やかな笑顔で答えるその人。
王女エディーネ・ロウ・ドゥークス・セフィールは、弟で現国王ユーリが療養する本宮に歩を進める。