第二章 二つの真実 話の集い場
「それにしても、キリア君。突然現れたかと思うと、貴方はすごい人と契約したものね」
キリアから、一通りの説明を受けて改めて感嘆のため息を吐く。
リリアは紅茶を口にしながら、向かいに座る二人を見比べた。
片方は、整った顔つきに勇壮な雰囲気が漂う歴戦の戦士。
もし、この男の素性を知らずに相対していれば、その容姿や佇まいから貴族の子息と勘違いする婦女子も多かろう。
恵まれた体躯には、動きの邪魔にならないように必要最小限の筋肉を纏う。
太陽に焼かれて少し灰色がかった黒い髪。
黒い瞳は、その奥に燃えるような強い光を宿している。
ギルドの中でも屈指の巨剣使いだ。
対して、その横に座るのは気品高い美しさを纏う絶世の美女だった。
黄金色の髪を背中の半ばまで伸ばし、吸い込まれるような輝きを放つ碧眼。
草臥れた旅装束ではなく、豪華なドレスを纏い化粧を施せば、舞踏会で全ての紳士を惹きつけるだけの強力な魅力の持ち主だ。
「反逆王女……私の情報網では、第一級の尋ね人よ。『生死を問わずに』だからね」
当然だろう。
世間ではエディーネは、王家の人間でありながら国王の暗殺未遂と王位簒奪を企んだとして最上級の不敬罪に問われている。
もちろん、その事が真実ではなかろうとも。
「その上に、ハイネ君だっけ? あの北方の狩猟民族の生き残りに狙われたとなると、今まで生き残っただけでも賞賛に値するわ」
紅茶に口をつけながら、ため息混じりの視線を向ける。
「ハイネが、王国の誰かと契約したのは事実だろう。奴一人が彼女の命を狙うのであれば、俺一人でも何とかなる。しかし、他の戦士が王国と契約してハイネと協力したら……」
その時は、命を捨てる覚悟が必要となる。
「分かっているとは思うけど、一度契約を交わした相手は……」
「たとえ、命を失うことになろうとも……。ギルドの掟は絶対だ」
そこには、微塵の後悔も感じられない。
その態度に、少しだけ呆れた表情を覗かせながら、隣にすわるエディーネに目を向けた。
「それにしても、エディーネさん」
優しい温かみのある口調だった。
全てを見透かしたような、淡い瞳がゆっくりと覗き込む。
「がんばったわね」
その言葉が、エディーネの古い記憶を呼び起こす・
幼い頃に亡くなった母親の記憶。
その表情すらよく覚えていない遠い昔の思い出……母の言葉。
「よく、この一年間一人で耐えてきたわね。大切に思った王国に追われて、幾つもの悪意に晒されて……」
エディーネの傍に歩み寄り、優しく抱きかかえた。
その温もりに、思わず涙がこみ上げる。
この一年の苦しみが、走馬灯のように脳裏に浮かんだ。
「……は……い」
涙に濡れて言葉にならない。