第二章 二つの真実 話の集い場
案内されたのは、この宿の一室。
普遍的な部屋だった。
部屋の奥に一人用の寝台が置かれ、小さな机が備え付けられている。
一夜を過ごすには、申し分ない一般的な宿の一室。
「キリア殿、この宿屋には何があるのです?」
いぶかしむような顔つきで訊ねる。
「もう少し待っていれば分かる」
背中に背負った巨剣を壁に立てかけながら、警戒する様子もなくキリアは話す。
立て掛けられた巨剣の重みで、壁が軋む音がエディーネの耳に入った時だった。
「いらっしゃい。本当に久しぶりだわ」
部屋の扉をノックもなく開いたのは、先ほどの女主人だった。
満面の笑みを浮かべながらズカズカと部屋に入り、呆気にとられるほどに軽快な口調で女主人は話し出す。
「ルクフォールの戦役以来じゃない。あの時は、この辺りにも反乱軍の奴らが押し寄せて大変だったのよね」
火が着いたように、矢継ぎ早に言葉を投げかける女主人。
それは、まるで氾濫した川のように、次から次へと言葉という激流が流れ出る。
「すまないが……この続きは、またいずれにしてもらえないか」
疲れ果てた表情で女主人の言葉をさえぎるキリア。
このままでは、女主人の話だけで今日という貴重な一日が終わりを告げてしまいかねない。
「あら、ごめんなさいね。職業柄、口を動かしていないと落ち着かないのよ」
ケラケラと声をあげて笑い、咳払いを一つはさんだ。
「そちらのお嬢さんとは初対面よね。私は、この宿の主人リリアと言います。宿の主人以外にもいろいろと情報を取り扱っているわ。よろしくね」
愛嬌の塊のような笑みでエディーネを見つめる。
「私は、その……」
本名を名乗るべきかどうかの躊躇いから口籠る。
「駄目よ! 相手が名乗ったら、ちゃんと自分も名乗らないと。と言っても、貴女の容姿を見れば誰だか想像は付くけどね」
わざと呆れた口調を使い、悪戯っぽい笑みを浮かべて相手の反応を見る。
「エディーネと申します」
僅かの間を挟んで、エディーネは静かに言った。