第二章 二つの真実 話の集い場
翌朝は気持ち良く晴れ渡った。
森を抜け、寂れた街道を進むと村が徐々に姿を現す。
フォンブルグ公国の王都ルーゼルから、東に外れたカース地方の田舎都市のひとつ。
クスール村は、どこにでもある小さな村である。
ただ、フォンブルグ公国内の天啓主義教会の聖地が村の近くに存在する。
そのため、巡礼地を目指した巡礼者がこの村を経由する。
村に入ってから、宿屋がやたらと目に入るのもそのためだろう。
町の規模の割に賑わっていた。
「キリア殿、ここは?」
そこは、村の宿屋を見回しても、平均的なレンガ造りの宿だった。
二階建ての建物の入り口には、フォンブルグの標準語で『話の集い場』と書かれた看板が掲げてある。
「ここに入るのですか? しかし、私は宿代を出せるほどお金が……」
「お金に関しては大丈夫だ。それに目的は別にある」
頭ひとつ分、背の高いキリアの顔を覗き込む。
「目的……?」
少し、困惑した表情だった。
「そう」
そんなエディーネをよそに宿屋に入っていく。
木製の扉を開くと、心地の良い木の香りが二人を出迎える。
そこは、大広間が広がっている。
広間の奥には大きな暖炉があり、その周りで巡礼者が談笑している。
「いらっしゃい」
巡礼者と談笑していた中年の女性が、二人の姿を見つけると張りのある声で出迎えた。
「ようこそ『話の集い場』へ。私がこの宿の主人です」
白髪交じりの髪は結い上げ、小柄で少しふっくらした全体的に丸い外見。
気の良さそうな笑顔は、ほんのりと心を癒される。
厳格な巡礼者たちが、女主人を囲んで楽しげに話しに興じるのも分からなくはない。
「あら! キリア君じゃない。久しぶりね」
朗らかな笑みを浮かべて、まるで旧友を迎えるような口調だった。
まるで、母親のように優しい抱擁のあとで、キリアの後ろに立つ女性の姿に気付いた。
「そちらのお嬢さんは?」
「諸事情がたくさんあって。部屋を一つ借りたいんだ」
「……わかったわ。部屋を用意するから、少し待ってね」
静かに、二階に向かう階段へと二人を誘った。