第二章 二つに真実 ローレンス神殿
そう、あれは秋晴れの少し肌寒い日だった。
王国に新たな歴史が刻まれる日。
「参りましょうか」
この日の戴冠式を取り仕切る紋章院のクルーゼン伯爵が、王宮の一室で控えるエディーネを迎えに来た。
傍に控えた女官たちがそそくさと部屋を出る。
そこには、これから女王としてセフィーリアに君臨するに相応しい純白のドレス姿のエディーネがいた。
首下には大きな真珠のネックレスが下がり、金糸で縫い取られた王家の紋章が胸に輝く。
セフィーリア王国では、天啓主義教会を国教に定めている。
そのため、戴冠式はセフィーリア王国における天啓主義教会の総本山ローレンス神殿で執り行うことが建国時からの通例となっている。
伝承では二千年以上も昔に建築されたとされる長い翼廊を持つ神殿は、穹窿の荘厳な塔が天高くそびえ立ち、外壁には名だたる名工達がその生涯を賭して彫り上げたという聖典に登場する天使たちが空を目指して飛び立つ様が神々しい姿が描かれている。
神殿の大聖堂には多くの列席者であふれ、中に入れない一般市民は神殿の外に集まっている。
その光景たるや、王都中の人々が全てこの場所に押し寄せたようだった。
聖職者席には、国内でも名だたる司教と司祭たちがその時を待っている。
やがて、聖歌隊席の合唱隊がその美声を惜しげもなくふるい、さらにパイプオルガンの音色が重なる。
外に集まった市民達が大歓声を上げる。
それは徐々に王都全体へと広がりを見せる。
そう、女王となるエディーネがローレンス神殿に到着したのだ。