序章 王国の危機
「陛下!」
いつもの時間になっても政務室に現れない国王を気遣い、侍従長が寝室へと向かうと室内で国王が意識を失い倒れていたのだ。
原因は不明……。
王都でも指折りの医師たちは口を揃えてそう答える。
事実、どのような医療をもってしても国王は目覚めない。
玉座に王がいない。
この事態に、国中の貴族たちは激震した。
早急に王宮に駆けつけて、ここぞとばかりに国王に対する見舞いの言葉を並べる者もいれば、虎視眈々とその様子を伺う者もいる。
先王の時代から、貴族たちは決して一枚岩ではなかった。
国内の有力貴族たちはこの好機をものにするべく、ありとあらゆる方法を用いて王宮に恩義を押し売ろうと企む。
そんな中にあって、この混乱を押さえ込んだのが王国高位七貴族議会だった。
元々は、国内貴族の統率を目的に先々代の国王が作り上げた諮問機関に過ぎなかった。
しかし、ホーキン卿が議長職についてから急速に力を蓄えていったのだ。
上級貴族を完全に統括し、政治的な力を徐々に増し、現在では王国の最高機関である元老院ですら七貴族議会の意見を無視すること出来ない。
そして、この事態にホーキン卿の動きは素早く見事なものだった。
国内の政治を一手に引き受けて混乱を防ぎ、名だたる貴族たちの横暴を押さえつけ、他国からの国内干渉の排除に至るまで万事に抜かりはなかったのだ。
この功績から、国王に代わり執務をホーキン卿が代行することを元老院が承認したのだ。
そして、国王が倒れてから二年の月日が流れた。