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TREASON PRINCESS  作者: KUROKO A
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第一章 始まりの出会い  運命の出会い


「貴殿は運が良かったのです。ちょうど市井で調達した薬草の中に解毒作用のある物がありました。三日ほど眠りについていましたが、貴殿の強さが命を取り留めたのでしょう」


男は、驚きを持って答える。


「三日もの間、貴女は意識の無い俺を見守ってくれたのか」


「あのまま、置いていくわけにはいきません」


当然だ。といわんばかりの口調だった。


男の拳に力が入る。


「この命は、助けてくれた貴女のために使いたい」


それは、どこか決意に満ちた口調だった。


突然、男は女性の前に立ち塞がった。


自分よりも、頭ひとつほど小さな女性をマジマジと見つめる。


「な! どういうつもりです?」


柄に手を掛けて身構える女性。


「命の借りは、命で返す」


片膝を付き、頭を垂れる男。


それはまるで、主君に忠誠を誓う騎士のように見える。


その様子を呆然と見つめた。


そして……。


「何を言っているのです! 先ほどの言葉を聴いていなかったのですか。私はセフィーリアから命を狙われているのですよ」


思わず、声を荒げてしまったが、自分の失言に舌打ちをする。


「セフィーリアとは中央に名だたる大国のことか」


そのままの姿勢で、問いかける男。


「そうです……詳しくは聞かないでください」


言葉とは裏腹に声が震える。


それは、今にも泣き出しそうな、か細い声だった。


胸を押さえて、必死に感情を押さえ込んでいる。


「貴殿が優れた戦士でしたら、私ではなく他の者を探して仕えてください」


呟くような小さな声だった。


「俺は、主君を持たない自由戦士だ。だからこそ俺は俺の信じた道を進む。仲間がいないというのであれば俺の剣を使えばいい」


男の決意は揺るがない。


「これは私の問題。それに……もう、誰も巻き込みたくは無い。傷つけたくない」


うつむき、視線をそらす女性。苦い思い出が脳裏に浮かぶ。


「それに、私にはその剣に報いる物などなにもありません。そればかりか、貴殿の剣に不名誉が付くことになります」


苦々しい表情だった。


過去に何があったのか男は知らないが、察するに余りある苦悩を背負っているのだろう。


「もう既に、報酬は受けている。それに、祖国に裏切られ、あまつさえ反逆の汚名を着せられた俺にとって名誉も何もいらない。ただ、命を助けられた借りを返す」


その言葉にハッとなる。


目の前で、頭を下げる男も自分と同じような境遇にいることが分かったからだ。


ゆっくりと立ち上がる男。


「俺の名はキリア・ディオン。傭兵組合ギルドに属する戦士だ。これは誓いだ……俺は貴女の剣となろう」


高々と宣言する男。


傭兵組合ギルドとは、ギルドに絶対的忠誠を誓約する世界最古の戦士組合の事だ。


一流の剣の腕前と揺るがない精神を持ち、ギルドが定める掟を全てにおいて優先できる戦士たちである。


ギルドの掟は非情なまでに厳しい。


たとえ、契約を交わした国が敗北しようとも、その結果命を落とすことになろうとも契約終了のときまでは決して裏切らない。


たとえ、敵対する国にギルドの戦士がいようとも決して寝返ってはならない。


もし、ギルドの戦士同士が敵対したときは、命を奪ってでも契約を遂行せよ。


そのため、各国は絶対的な信頼、信用をもって莫大な金額を展示する。


そして、その契約を受けるか否かは各個人の裁量に任されている。


いつ、誰と契約を交わそうと、掟を遵守すればかまわない。


ただし、一度でも契約を不履行してしまえば、いかなる理由があったとしてもギルドから制裁を受ける。


それは絶対なる死。


だからこそ、ギルド所属の戦士は、契約相手を見極める優れた目が必要となる。


契約者の立場、相対する敵、現状の戦力。


その全てがはじき出す答えは、彼女との契約は避けるべきと男に告げる。


しかし、男にはギルドの掟以上に重きを置く言葉がある。


「困っている人がいたら全力で助けなさい。今は亡き母上が常日頃から俺に言い聞かせた言葉だ」


唖然とした表情で男を見る女性。


そこには、嘘偽りのない顔がある。


驚きの感情は次第に薄れていく。


そして、抑えきれなくなり、ついに声を出して笑ってしまった。


久しぶりにお腹を押さえ、涙さえ浮かぶほどに。


「貴殿は、相当の変わり者ですね」


思わず、その場に座り込み噛み締めるように笑う。


やがて、それは頬を伝う涙へと変わった。


「褒め言葉と受け取っておくよ」


手を差し伸べる。


それは、大きな掌だった。


傷だらけで、幾つも肉刺が出来ている戦士の掌だった。


一瞬迷いながらも、差し出されたその大きな掌を優しく握りしめた。


そこには、先ほどの勇ましい戦士の表情は消え去り、愛らしい笑みを浮かべる一人の美しい本来の女性の顔があった。


「私は……」


一瞬の躊躇いが顔に浮かぶが、意を決したように。


「私はエディーネ。お互い、自国には相当に苦しまされているようですね」





のちに、この二人の出会いが大陸を震撼させる事になるとは、このとき誰も知る由が無い。



ただ、時間は必然的に二人を結びつけ、新たな運命へと世界を誘うこととなる。


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