第一章 始まりの出会い 運命の出会い
冷たい風が、木々を揺らす。
その音で、男は目が覚めた。
まだ少し体が重いが、手足は自由に動く事を確認して周囲を見渡した。
ロウソクに灯る僅かな光が照らし出す光景は、古びた教会の聖堂だろうか。
見覚えがある。
確か、刺客たちに襲われた時に、咄嗟に逃げ込んだ教会。
「うっ!」
左の腕に走る鈍痛に視線を送ると、短刀の刺さった位置には包帯が巻かれている。
二、三度その箇所を撫でながら、ふと、女性の顔が頭に浮かんだ。
かすかに記憶に残る、あの人の姿を探すが見当たらない。
「……夢でも見ていたのか?」
ぼんやりと、まだ纏まらない記憶を整理している時だった。
聴き慣れた衝突音。
それは、間違えるはずも無い。
剣と剣が、ぶつかり合うときに生じる金属音。
思わず、近くに立て掛けられていた巨剣を手に取り、割れた窓越しに外を窺う。
月が照らし出す荒れた庭。
そこには、四人の人影が一人の女性に剣を向けている。
そう、女性は絶体絶命の窮地に立っていた。
細身の剣を抜き、必死に応戦しているが相手が多人数で分が悪い。
呼吸は荒く、目付きは厳しく、黄金色の髪は乱れている。
剣を捌くその動きにも、相手と距離を置こうとする足取りにも余裕はない。
対して、襲撃をしている男たちは、剣の扱いからみても相当の年季の入った騎士だろう。
確実に勝利できる状況になっても無理に攻め入らず、虎視眈々とその隙を窺っている。
徐々に体力を奪い取り、確実に止めを刺すという明確な殺意が見て取れた。
そして、そこまで襲撃者たちが慎重にならざるを得ないのかが分かった。
襲撃者たちの後ろには三人の男が鮮血の中に倒れている。
どうやら、この女性は孤立無援の状態で三人の男を返り討ちにしたのだ。
剣の技量は並々ならぬものだろう。
たった一人で、騎士相手にここまで戦っていること事態が賞賛に値する。
しかし、それにも限度がある。
度重なる攻撃に、徐々に女性の体力が限界に近づいているのだろう。
ジリジリと後ろに下がり、ついに教会の壁にまで追い込まれてしまった。
片方の膝が地面に落ち、激しく乱れる呼吸。
剣を握る腕はかすかに震えている。
ただ、その眼は険しく、何か決意が見て取れる。
どうやら、一人でも多くの襲撃者を道ずれにと考えたのだろう。
思わず巨剣の柄を握り締めた。